リーシャ、自分が結構お金持ちだと知る。

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リーシャ、自分が結構お金持ちだと知る。

「ようこそいらっしゃいましたシャインベック様」  ダークが予約したホテルは、いわゆるオーシャンビューが臨めるとか言うかなりハイグレードで洒落たところであった。  3ベッドルームスイートで、使用人含めた大人数とかファミリータイプ用の部屋であり、さらには最上階の部屋に案内された私たち。  窓からはキラキラと陽射しを受けて輝く海が眼前に広がっていた。子供たちはご機嫌度MAXである。  そして私の動悸息切れ度もMAX。  ホップステップジャンプ的に金額が上がるルートを歩んでいるとしか思えない。  中身はいつまでも前世の庶民のまんまなのよ私の金銭感覚は。  チップを渡してボーイが荷物を置いて下がった辺りで私は立ちくらみを起こしてしゃがみこんだ。 「どうした!大丈夫かリーシャ!」  慌ててダークが身体を支えてくれる。 「………ありがとダーク………いえ、こんな明らかにお高そうな部屋、前世でも泊まった事なかったので怖くなってしまって………ねえ、だ、大丈夫なの?  無理して奮発し過ぎてない?良かったのよ、もっと庶民的な部屋で」  私はダークを見つめ小声で尋ねた。 「驚いた、そう言う心配か。  家族みんなで使えるような部屋がここしかなかったし、たまに出掛ける時ぐらいは贅沢出来るゆとりはあるぞ?ウチだって。  それにリーシャの方がよっぽど俺よりも金持ちだと思うが」 「まさか!ただの物書き業でこんなホテルのスイートに泊まれるほど稼げる訳ないじゃないのよ。やあねダークは大袈裟なんだ、か………」  ふとルーシーを見た。  お金の管理は全部ルーシーに任せているし、必要な画材などもそこから出してもらってるので、自分がどの位稼いでいるのか把握してないのだが、いやでもまさか。 「………ルーシー、私の仕事の稼ぎでこの部屋泊まれるかしら?」 「ええまあ。何年か居ても痛くも痒くもない位には大丈夫でございますね」  耳打ちしてきた貯蓄金額に、ひいぃ、と思わず声が出た。  確実に間近で見たことも聞いたこともない金額になっているではないか。  いや、確かに前世より仕事してる感はあったけども、そんな豪勢な屋敷を何軒も買えるような金額いつの間に稼いでいたのか。 「ルーシー、貴女ってば、よくそれ持って逃げなかったわね。一生遊んで暮らせる額じゃないの」 「まあそんな持ち逃げしたくなる金額を、何の考えもなく使用人に全部預けっぱにしておくリーシャ様の方がどうかしてますけどもそれはさておき、給料も充分頂いてますし、リーシャ様の側で暮らしてる方が逃亡生活より何倍も楽しいですから。  マンガや小説も直ぐに読めませんし、坊っちゃま達の成長を見る喜びもございませんもの」 「ルーシーったら、ホントにお人好しなのね。まあそんな貴女がいてくれるから私も頑張れるのだけれど」  アホが付きそうなほどのお人好しは、むしろリーシャ様の方ではなかろうかとルーシーは思っていたが、敢えて触れずに、 「ですので、たまには使って頂きたいのです。  バーベキューやら浮き輪やら水着やら下着やら、もうどーんと使って下さいませ。それならリーシャ様も旦那様に気を遣わずに居られますでしょう?  それに滅多に出掛けないご旅行ですし、ケチケチしても仕方がないではありませんか。勿体のうございます」  ダークも頷いている。 「そ、そうよね?ちょっと贅沢し過ぎかと思ったけど、たまの旅行だものね!  ………でもバーベキューとか水着は分かるけど、別に下着にパーっと使う必要はないんじゃなーー」 「旦那様や坊っちゃま方の水着や海水浴するための買い物もございますし、リーシャ様も水着やら色々買わないといけませんわ。  わたくしとしたことがのんびりしすぎておりました。  さあ、荷物をほどいて下の店舗へ買い物に行きましょう!」 「かいものー!!みずぎー」 「うきわー」  子供たちも外の景色で尚更テンションが上がってしまったので、私とダークは慌ててラフな格好に着替え、みんなでホテル内のショップに向かったのだった。 ◇  ◇  ◇ 「ママ、かわいー!」 「にあってるー!」  子供たちがパチパチと手を叩いているのは、私のオレンジ地に白や赤のチェック模様が入ったタンキニタイプの水着に同色のパレオがついたもの。  多少の露出はあるものの普通の庶民的な夏服の格好に見えるのがいい!とダークのお薦めである。  子供たちはお揃いで黒とグレーの縦ストライプのトランクスタイプ。  何故か既にブレナンは浮き輪をつけている。確実に海でクラゲのように漂って涼む気満々だ。  ダークは黒のシンプルな膝丈トランクスタイプ。上半身の鍛えた筋肉が美しい。目の保養とはこのことか。  アレックは通常の太ももぐらいまでの黒のトランクスだが、原色の花が咲き乱れているド派手なアロハみたいな柄である。  彼も元騎士団だけあって、鍛える事はしており、普段見れるのが恋人のジョニーだけなのが勿体ないほどいい体つきである。  ルーシーは胸元と腰のところにアクセントでラメがついてる濃紺のワンピースタイプだった。胸が私より大きいのがちょっと悲しい。  もう既に昼の一時を回っている。  みんな水着の上に、すぐ脱げるような軽く羽織るものを身につけ、アレックはタオルや海岸で広げる大きなシート、日焼け止めなどを詰め込んだ手提げを抱えた。  さあ、いざ海にれっつごー!!  やはり、私たちが暑いなら他の人だって暑いのだ。  近くの海岸は、初夏だというのに結構人で賑わっていた。  私たちもシートを広げ、スペースを確保した。  「うみー、うみー」  浮き輪をてしてし叩きながらブレナンが催促する。カイルもウズウズが止まらないといった感じだ。 「ダメよ。ちゃんと準備運動しないと身体がおかしくなって動けなくなることもあるからね」 「………あい」 「あい!」  みんなでカイルたちと一緒にストレッチをしていると、背後から 「うわぁ、すっげぇ可愛い子たちだなぁ」 「天使だな天使」  などという声が聞こえた。  周囲に子供はいない。  明らかにうちの子たちの事であろう。  そうなの、うちの子可愛いのよ。 「まあ、ありがとうございます」  思わず満面の笑みがこぼれ振り返った。  話をしていた20歳前後の二人組の若者が私を見て固まった。  一人は買ってきたのだろう袋に入った飲み物を落としてしまっていた。返事が返ると思っていなかったのだろう。悪いことをしてしまった。 「急に声をかけてしまってすみませんでした」  私は落ちた袋を拾って砂を払い男性に手渡した。 「多分中身は大丈夫だと思いますわ。本当にごめんなさい。子供たちを可愛いと言って下さったのが聞こえてつい嬉しくて………今度から気をつけますわ」  私はぺこりと頭を下げた。 「いえっ!こちらこそ不躾で申し訳ありませんでしたっ!!」  一人が顔を真っ赤にして頭を下げ、口をぽかーんと開けたまま「女神が………」とか呟いてるお兄ちゃんを引きずるようにして連れていった。  この国の男性は黒髪黒目の日本人系のあっさり糸目顔に弱すぎるわよね。だから土偶だと言うのに。  人妻を人外扱いされても困るんだけどなぁ。 「リーシャ………よその男に話しかけるな笑顔を振り撒くな。片っ端から惚れられてるじゃないか」  ダークがちょっとおこである。 「いやでも子供褒められて喜ばない親がいる?」 「いくら嬉しくても十代から五十代までの他人の男は1メートル以内に近づけたらダメだ。100%惚れられる。リーシャは自分の見た目を過少評価し過ぎだ。  今だけじゃないぞ。海岸に降りてくるだけでもう5人の男が呆然自失になり、2組がカップル同士で痴話喧嘩に発展してるんだ!」 「話を盛りすぎのよ。私がこんな顔で調子に乗ったらどうしてくれるのよ!冤罪よ冤罪!不当判決だわ!」 「ママ、きれいだからしょがないの」 「パパもケンカはメッ!ママいじめないで」  ブレナンもカイルも大人げなく口喧嘩していた私たちを止めに入った。  そうだ、旅行に来てつまらない事でケンカしてる場合じゃなかった。 「カッとしてごめんなさい。私が愛してるのは死ぬまでダークだけだから。仲直りしましょう?」  ダークに抱きついて厚い胸板に顔をすりすりした。 「……ぐっ………俺も悪かった。別にリーシャのせいじゃないのにな」  私を抱き締めて頭を撫でるダーク。 「さあ仲直りしたぞ。カイルもブレナンも海に入るか」 「「あい!」」  必死で空気を吹き込んでいたアレックの努力の甲斐あって、大人3人が乗ってもゆとりのあるビニールボートも完成し、最初に荷物の留守番をしていると言うルーシーを置いて、私たちは海へと繰り出すのだった。
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