転生しては見たものの。

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転生しては見たものの。

【リーシャの独り言】  ねぇ、普通さぁ。  うっかり死んじゃって未知のヨーロッパ的な外国の世界に転生したらさ、まー少しは期待するよね?  さらさらプラチナブロンドぱっちり二重の青だの紫だのの瞳とかさ、ぼんっきゅっぼんっのパーフェクトボディの目鼻立ちが整いまくった美少女的な奴。  逆ハーとかはどうでもいいけど、見目麗しい美形の王子だの魔王だのから溺愛されるとかさ。  いや、そうでなきゃチート的な魔法とか特殊能力とかで国を救ったり、冒険したり。ほら、あるじゃない中2病暴発的な『私だけが持つこの力でぇぇ』とかがね?  私、生まれた時から前世の記憶あったりしたのよ。  だから赤ん坊の時からしっかり目も見えたしさぁ、あーもしかして転生じゃん私、やだこっちのお父さんめちゃ美形じゃんその上伯爵って結構いい身分じゃない、お母さんは、何ていうか割りと淡白というか馴染みやすいあっさりした顔だったけど、ブラウンヘアで綺麗なグリーンの瞳だしさ、期待するよそら。しないでか。  周りのメイドさんやら執事とかも、 「………赤ん坊の時からこんな美少女なんてお目にかかったこともありません!」  とか大絶賛だったし、親からも溺愛されたし、お兄ちゃんなんかはさ、 「リーシャは大きくなったら僕のお嫁さんにするんだ!!」  とか騒いでるし。  とりあえず落ち着けさ兄ちゃん。まだ首座ってないから抱き上げるの首から持てや。生まれました早々に家族のやんちゃで首折れて死にました、じゃ転生した意味ないからね。  化けて出るよ?神父さんにも浄化されずに付きまとうからね一生?  いやはや参ったなこりゃフランス人形的な美少女に生まれ変わったか私ってばいやーん、とか少し調子に乗っても仕方ない事だと思うわけ。そこまでもてはやされるとさ。  まあ、でも美貌だけを武器にすると傲慢な悪役令嬢的スタンスになって、ろくなことにならないとか小説だとかゲームとかお約束じゃない?  それにねぇ、顔なんてどうせ若い内はモテるかも知れないけど、ぶっちゃけ年取ればメリット無くなるし、他に何も取り柄がないバカ娘になるつもりもなかったから、ワガママも控えて習い事もきちんとして勉強もしようとか小さい時から頑張ったよ。  そんな期待は5歳の誕生日に初めてマトモに姿見を見て儚く消えたよね。  膝から崩れ落ちたよね。  黒髪は長くしてたから分かってたけど、黒目に一重の細い目、ちんまりした鼻、デジャヴかと思うほど転生前の自分のちっさい頃とおんなじでやんの。  どこに洋風の血が入ってるのか隠し味ほどにも分からんがな。  薄味な地味めの顔立ちで、美人とはお世辞にも言えない訳ですよ日本人の私の基準では。平均値以下。  頑張って家族の組織票入れても凡人クラス。  誰がヨーロッパ風の異国で親もあんなキラキラした父親やカラフルな目した母親からこの顔が生まれると思うよ。  いっそ感心したわ。黄色人種のDNA恐るべし。  よくパパンはママンの浮気を疑わなかったな。  と思ったら、ママンのおばあちゃんが黒髪に近い焦げ茶色で顔もよく似てたらしく、隔世遺伝かもっ、なんて言ってたけどさ。  ママンのおばあちゃん日本人の転生者だったのかしらね。  まあ5歳にしてそんな絶望を味わった。  うちで働いてるからメイドさん達もそら言えないよね、いやぁお嬢様は稀にみる不細工ですねとは。  同情票はさておき、己の顔を改めて眺めると、まあ24年間お世話になってた顔だから、別に嫌いかと言うとそうでもない。  馴染んでる。  長年愛用してた腹巻き(お腹冷えやすいのよ私)と同じように違和感がない。  アニメや漫画のほんのりBLとかパロディとか創作系の同人誌でマンガを描きまくってて、徹夜が続くと寝不足で両瞼が腫れ上がって、その上目も細いから仲間内で『土偶』とからかわれ、しまいには愛称が「ぐうちゃん」になってたけど、そんな顔でも愛着はある。  本名は松ヶ谷理沙(まつがやりさ)って完全に名前負けしてたから、ぐうちゃんて呼ばれるの嫌いじゃなかったわ。うん。  まあ冬コミに間に合わせるために徹夜を重ねてようやく仕上がった原稿をポストに投函した後に、家に戻ろうとしてクルマにはねられてから先の記憶がないから、きっとアレで死んだんだよね。享年24歳か。御愁傷様でした自分。  いやー、ポストに投函した後で良かったわ本当に。原稿持ったままだったら股間にモザイクのトーン入れた薔薇を背負った美少年とガチムチ体育会系兄貴とのハートフルラブストーリーがばらまかれて生き恥晒してたよね。  あー死んでるから死に恥になるのかしら。  自信作ではあったけど。  持ったままだったらきっと執念で這い回りかき集めるまでは死ななかった気がする。そういう意味では悔いを残さず良かったな。いや良くはないか。せっかくフルカラー16ページつけようとボーナスマニーを惜しみなく投入した豪華本だったのに。時間もかかったのに。見たかったわ完成品を。  今となってはどうにもならないけどさ。  どちらにせよ家族に要らぬ辱しめを与えずに済んだのだけは感謝しないと。  まーそんなヲタク生活のアグレッシヴな最期はさておき。  そんなこんなでますます勉強も稽古事も熱心になったよね勿論。  だってこの顔でしょ?貴族とは言え、ろくな結婚相手も見つからないだろうし、手に職で生きてくパターン濃厚だと幼心にも覚悟が決まったと言うか。  頑張ったわ自分なりに。  どこに出しても恥ずかしくないマナーも気品も知識も兼ね備えた淑女と先生もべた褒めだった。  まあ顔以外は、ってことだと思ったけど。  でもさ。15歳位まで必死に頑張ったんだけどね、なんかおかしいのよ。  うちのお兄ちゃん4つ歳上でマークスって言うんだけどね。  明らかにママンの和風あっさりテイストを引き継いでて、不細工ではないけど地味メンなのに、やたら婦女子にモテモテでね。明らかに美少年と思われる友人達と一線を画すもてっぷり。  「ルーベンブルグ家の魔性の美貌の嫡男」だとか言われてるの。いやないでしょ。  そんなら弟のブライアン(10歳)とかの方がマジで天使だから。  くりくりしたママン譲りのグリーンの綺麗な目にパパン譲りの彫りの深い整った目鼻立ちだし、そりゃもう将来性有望な美少年。  メイドのルーシーにそう思わない?と言ったらとても微妙な顔をされて。  かと思えば、表に遊びに行きたいと言ったら夏でも冬でもフード付きのマントみたいなもので髪と顔をすっぽり隠される。 「リーシャお嬢様、何があっても決してフードを取ってはいけませんよ。間違いなく拐われます」  と過保護も極まるような発言をされる。  いやいや、土偶だからね、何だかんだ言うても。  身内贔屓にも程があるよね。  両親も兄様もブライアンまでコクコク頷いてるし。乙女心を傷つけないようにする優しさが居たたまれない。  そう思ったさ。  うっかり初めて他人、と言うか配達の兄ちゃんと鉢合わせして、 「女神?………」  とか呟かれて鼻血吹かれて失神されるまでは。    どうやら、身内贔屓ではなく、本当にこの世界では、私の髪色や顔立ちは「美人」の類いらしい。  髪は黒に近ければ近いほど、顔はあっさりであればあるほど、より美人ランクがぐぐぐぐぐーっ、っと上がるみたい。  まあ髪の毛はさ、何となく分かるよ。外国の人たちって色素薄そうだし。あまり居なさそうだよね。無い物ねだり的な希少価値で好感度が上がったんだねきっと。  驚いたのは、パパンとかの洋風の彫りの深い男前はこっちでは「不細工」らしい。  ママンの方が当然美しいらしく、 「ライバルをちぎっては投げちぎっては投げ」  してようやく勝ち取った程の美人だそうな。  え、そうすると私の癒しブライアンも不細工なの?ひどい。  だから、私の顔も髪も、こちらの価値観だと 「傾国レベルの美しさ」  なんだって(苦笑)  嬉しいかって?  ………いやー、なんか微妙。  100均の茶碗に五万円の値がついちゃったみたいな?  外国の人が観光で日本来てさ、「オージャパニーズ舞妓ミステリアス!スキヤキファンタスティック!!」とか言ってるようなもんでしょ。  この世界ではかなり珍しい見た目ってだけだもんなあ。素直に喜べない。  残念ながら私の美的感覚とは真逆なのよねえ………。   「成人する前に世間に顔を晒したりしたら、権力をかさに上位貴族や王族に嫁入りさせられる!年若い女性からは絶対虐められる!!」  とパパンが力説してたのは親の欲目では無かったらしい。  はあなるほどねえ。だから私外出も制限されてたしお茶会なんてもってのほか、とか言われて行けずに、友達全然いなかったのか。  いやこれも虐待なのでは?  大袈裟過ぎるよね、土偶だってば。  ま、個人的には社交界面倒くさかったし結果オーライなんだけどさ。  インドアライフ最高。  あ。でも一つだけアウトドア的な事はしてるな。  釣り。  淑女がするものではない。多分。  勿論家族と食べるためである。日本で生きてた時にもやっていた。魚ハラショー。日本人最高!  うちの伯爵領はそれほど富裕ではないので、使用人も少ない。ママンも伯爵夫人ではあるが掃除もするし普通に食事を作る。  食事も割りと質素というか贅沢をしない。まー出来ないと言うと語弊があるのでそこは察してもらいたい。締められるところは締める。大事なことである。  だから、男の子のように釣りをするなんて、と最初はいい顔はしなかったのだが、沢山釣って来るようになると嬉しそうに受け取って、食卓に魚料理が増えるので、家族から唯一外出を堂々と認めて貰える趣味と実益を兼ねた有意義な活動なのである。    ドレス着て行く訳でもないし、どうせ大きめのフードついた上着着て、乗馬用のズボン履いてるし、パッと見ても少年みたいにしか見えないだろう。  現在17歳になった私、リーシャ・ルーベンブルグは、今日もいそいそと釣り支度である。
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