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成人の姿に戻った俺は、琴絵をそっとレジャーシートに横たわらせた。彼女の首には歯型から血が流れている。 俺は彼女の頰を優しくなでた。気持ちよさそうに眠っている。 「終わりましたか」 いつのまにか燕尾服の女がバルトの後ろに立っていた。 「もう出てきたのか。もう少し余韻に浸らせてくれよ」 「私もこれが仕事なので。いつものように」 「あぁ、記憶なくして、彼女の部屋に送っておいて」 俺は彼女の首元に手をかざした。一瞬で傷口がなくなった。 「おや。またこの女性ですか。ピクニックが許されてから、彼女の血しか吸ってないのでは?」 「誰の血を吸おうといいだろう」 俺たち吸血鬼は今の世界にわずかに存在し、密かに人に馴染み生活している。人のご飯は食べることもできるが、定期的に人の血液を飲まないと生きることは難しい。しかし、子どもだと理性を保てず、人を殺してしまうほど血を吸ってしまう。そのため、子どもは血液パックを代用して飲んでいる。成人となって理性が保てるようになったら、人の血を直接飲むことが許されている。それをピクニックと俺たちは呼ぶ。血液パックよりも直接飲んだ方が美味しいことを知っているからやめられないのだ。 「別にどうでもいいのですが。血を吸われた者の記憶を消すのは掟ですからね。…食料に恋をするなんて不毛ですよ」 「何を言っているかわからない。俺はただ…彼女の血に惹かれているだけだ」 「そうですか?好きな餃子を作ってきてくれて嬉しかったのでは?」 「…いつから見てたんだ?」 「さあ?」 「もう話は終わりだ。あとは任せた、ルナ」 「かしこまりました」 もう1度、琴絵の頰にそっと触れる。 なぜか一目見た時から、彼女が頭から離れなかった。どんなに違う女性の血を吸おうとも、結局彼女以上に惹かれるものを感じなかった。 おそらく彼女の血をこれからずっと吸っていくのだろうとも感じていた。しかし、それ以上に彼女のそばにいたいと思うこの気持ちはなんなのだろう。どうせ血を吸ってしまえば記憶を消さなくてはいけないのに。 彼女への気持ちをたち切るように、立ち上がり僕は雨の中ゆっくり歩き始めた。 「またね。琴絵」 僕はいつも言う言葉を寝ている彼女に向けて言った。
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