1.独りよがりな君へ

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1.独りよがりな君へ

 今日も僕はツイッターを見る。新しい情報を求めて。けれど、そこには僕にとって面白い情報はないようだ。ふと顔を上げて、周りを見渡す。そこには、何の変哲もない光景だ。ここぞとばかりに指一本を働かせる人。ひたすらに動画を垂れ流している人。そこにある表情に変わりはない。 ガタンゴトン、ガタンゴトン。  規則的で不規則なリズムはまさに何かを蝕んでいるようだ。そういえば、最近変わったことがある。座席の隙間に小さな1センチほどの穴がポカリと空いている。これを使えば、仕事が終わった後に連絡ができないといったような不便がなくなる。世の中は便利になったものだ。ただ引き延ばされているだけのことに気づかずに。 ガタンガタンゴトン、ガタンガタンゴトン。  そこで、必ず口をそろえて言う言葉がある。 **昔の方がよかった**。 僕は昔ってなんだよとほくそ微笑む。まあ、確かに昔には今にはないこともあったはずだ。それに、歴史は繰り返されることは勤勉な人ほど分かっていて、でも実はその本質が分かっていない。では、もう一度狼煙を上げようか?それを肯定する人はいないだろう。しかしながら、今はその上に立っていて皮肉なことにそれが手っ取り早く解決する方法だ。ここで忠告しておきたいのは、あくまでも自論ということだ。誰もふとそんなことを考えて、倫理と嫌悪感によってそれを打ち消す。 ガタン……、ガタン……。  何を話していたんだっけ。そう、昔という概念についての話だ。もしかしたら、昔は分かりやすかったのかもしれない。 Never give up. もう一度、立ち上がろう。人々は夢を見て、いろんな方法で何かと戦った。剣、銃、航空機、化学兵器、ネットワーク……。日々技術は進化し、数々の過ちを犯してきた。これらなしに技術を進化させようとは、何たる傲慢で欺瞞なのだろう。 ガタンガタン、ガタンガタン。  ……別に闘えなんて一言も言ってない。むしろもう引き返せないところまで進んでしまったのだ。その逢瀬に立ちはだかっているのが、今の世代だ。 誰もそんなことをしたくないとわかっている。 誰もそんなことをそもそも考えたくない。 誰もそんなことをかかわっていたくない。 しかし、勇者がやってくれるのではないかと希望を持っているからかろうじて生きている。勇者とはなんだろう。ここで、比較ができるのが昔と今だ(なんと皮肉なことか)。昔はヒーローは悪を打ち倒すという一人の清くて正しい物語であった。しかし、いつしか悪者はただ臆病でやり方を一歩間違えただけのダークヒーローであったのだ。だから、本質的にはどちらも何かを守ろうとしたのであって、何が正しいのかなんて誰にも分からないという考え方が今の勇者に対する考え方だ。 ガタン……、キー……、ガタン……ガタン……。  物語は一人称ではなく二人称から多人称になっているとも捉えられる。たかが物語と考える人も多いと思うが、それが現実の根底にある事情なのだということを忘れてはならない。何が言いたいのかというと、得をすると何らかの犠牲が伴うということをようやく自覚したのだ。だから、自分だけではなくて家族、国、はたまた世界を守らなくちゃいけない。そんなユートピアがどこにあるというのだ。でも、それを現実にも求められるようになってしまった。というか、必然だったのかもしれない。ああ、なんで大局観を見るとひどく抽象的になってしまうのだろうか。話を元に戻すと新しい情報を求めるということは、要はその勇者の何かに少なからず期待しているということだ。だから、これからもツイッターを見るのだろう。そんなことで、いつまで僕は目を背けるのだろう。でも、進まなくてはならない。時間は常に前に進んでいる。 少年は一足で、さっと降り立った。 そして、新鮮な空気をすーっと一気に取り入れて、吐いた。 人々はドアの前で邪魔だなと怪訝な目で一瞥し、すり抜けていく。 少年は前だけを見て、危うげな瞳でけれど胸に確かな火種が燻っている。 このあと一人の少年はダークヒーローになるのか、ヒーローになるのか、はたまた住民Aになるのかまだ誰も知らない。 私はそんな高尚で傲慢な君にまだ何もできないが、きっと君を**いい方向**へと導くことできるだろうと確信をもってひそやかに荘厳に嗤ったのであった。
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