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お姉ちゃんのシュークリーム
ボクの姉は東京六大学への合格率で一、二位を争う名門私立高校に通っている。しかも生徒からの圧倒的な支持をうけて生徒会長を務めている才色兼備で完璧な女性だ。
そんな姉から見ると、ボクなんか背が低くて女の子みたいな顔をしているし、おまけに頭も悪い。ボクは高校受験を控える中三だというのに、友達には『祥太はまだ子供料金で電車に乗ってるだろ』とか悪口を言われたりするし。悪いところを数え始めたらきりがないぐらいにダメダメな弟なんだ。
そんなことじゃいつまで経っても姉に迷惑ばかりかけてしまう。
だから…………
見ててお姉ちゃん!
ボクは第一志望の男子校に行って一人前の男になってみせるから!
ボクは姉からもらったハチマチをギュッと頭に巻いて気合いを入れる。『祥ちゃんガンバ!』と桃色の文字が刺繍された姉お手製のハチマキで、目指すは県立K高等学校だ――――!
苦手な数学の過去問に頭を抱えていたとき、ノックの音がした。
姉がお盆を持って入って来た。
「祥ちゃん、お茶にしない? あまり根詰めても身にならないから、お姉ちゃんのシュークリームを食べて気分転換しましょう!」
「ありがとうお姉ちゃん…… えっと、お姉ちゃんのシュークリーム!?」
「あっ、間違えちゃった! んふっ、お姉ちゃんが手作りしたシュークリームを祥ちゃんのお口いっぱいに満たしてたっぷり堪能してね?」
なんだか言い直してもらったら更にひどくなったような気がしたけれど、これはボクが変なことを想像したからいけないのだ。何事にも完璧な姉に間違えはないのだから。
机に置かれたピンク色のお皿に乗せられたシュークリームは、焼きたての香ばしい香りがする。それに姉の身体からほのかに漂ってくる薔薇の花のような匂いが絶妙な感じで混じり合い、ボクの思考力はお花畑にトリップしそうになる。
「はい、どうぞー♡」
「…………えっ!?」
姉は白くてか細い指先でシュークリームをつまみ、ふわふわ素材の真っ白なセーターの胸元にあてがっていた。
それって、ボクらが小さな頃にシュークリームを胸に当てて『おっぱーい』とか言っていた遊びの延長なのだろうか?
「んふっ、これじゃ食べづらいかな? あっそうだ! お姉ちゃん、ベッドの上に仰向けになろうか?」
「そんなことされたらもっと食べにくくなっちゃうよー!」
「えー、昔は良くこうやって食べてくれたじゃない!」
姉は口を尖らせて不満そうに言ったけど……昔って、いつ頃の話だろうか。
良く覚えていないなぁー。
「祥ちゃんが赤ちゃんの頃、お姉ちゃんのおっぱいに当てがった哺乳瓶からいっぱい飲んでくれたのにぃー!」
「えっ、そうだったの!?」
ボクが赤ちゃんの頃って、お姉ちゃんは二歳か三歳だよね?
そんな頃からお姉ちゃんはボクのことを見ていてくれたんだね。
その話を聞いて思わず胸に熱いものがこみ上げてきた。
だからと言って、女子高生のおっぱいを中三の弟が吸って良いわけがなく、いや、吸うんじゃなくて食べる……いやいや、食べるのはシュークリームな訳で……
などとボクがあたふたとしていると、お姉ちゃんはシュークリームを小さくちぎってボクの口の中に入れてきた。
「どうかな? 美味しい?」
姉は膝立ちになって下からボクを見つめている。
ほんのり頬が赤くなっている姉の顔は、弟のボクが言うのも変かも知れないけれどとても可愛くて美人なんだ。
ボクが見つめ返すと、ハッとしたように目を見開いた。
「あっ、祥ちゃんはお勉強中だったね、これはお姉ちゃんが食べさせてあげるから構わずお勉強に集中して!」
「う、うん。そうするよ」
姉に促されてボクは再び過去問に取り組み始める。
うーん、やっぱり数学は苦手だ。
それに…………
「はい祥ちゃん、あーん♡」
まるで小動物の餌やりみたいな感じで姉が手を出してくるのでなかなか勉強に集中できないんだ。
そして、その度にボクの口の周りについたクリームを丁寧に指先で拭って『んふ!』って笑いながらその指をしゃぶっているその仕草がとても気になってしまうんだ。
いくら鈍感なボクでも、この姉の行動は黙って見ている訳にはいかないよ!
「お姉ちゃん!」
「ふえっ!? ど、どうしたの祥ちゃん、いきなり立ち上がって……」
目を見開く姉に、ボクはしっかりと目を見つめて宣言する!
「それほどまでに大好きなシュークリームをボクのために分けてくれてありがとう!」
「あっ、う、うん。どう……いたしまして……」
どういう訳か、姉は腰を抜かしたように女の子座りをしたまましばらく動けなくなっていた。
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