逢嘉祢の章

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 奉行、役人といえども人の子であることには変わりない。逢嘉祢は仇討ち御免状の為に土地土地の奉行所へと立ち寄る度にそう思った。  音に聞く仇討ちというものが、ついぞこの地にも来た!とばかりに皆一様に胸をざわつかせる。  役人であるから、それは当然色に出さないが、滲み出る好奇の心は瞳に隠せない。  それは馬鞍戸も看破している様で、見世物ではないと舌を打つ事もしばしばだが、逢嘉祢はそうは思わない。  仇討ちなんて見世物だ。音に聞く歌舞伎や浄瑠璃と何が違うというのか。  そんな内心はおくびにも出さず、凛とした態度を作ったまま、奉行に仇討ち相手である義之助が見付かったことを報告する。  ──これで後は夕刻、奉行所が指定した場所に義之助様を召し上げてくれる。  そこで全てが終わるのだ。  逢嘉祢は奉行に頭を下げながら、人知れず微笑んだ。
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