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「お前、俺との約束を覚えているか?」
「いちいち野郎との約束なんて覚えていられるかよ」
にやりと笑う勘佐に、義之助は安堵の息を漏らす。
「ああ。そうだな。俺たちに遠慮は無用」
義之助と勘佐は、ほぼ同時に猪口の酒をぐいっと呷り、互いの徳利を差し合った。
二人の約束。
一、お互いの過去に干渉しない。
一、お互いが商売敵になった時は、手心を加えない。
一、お互いの明日を縛らない。
刹那的に生きる二人だからこそ、この関係性がお互いを惹き付けた。
勘佐が『遠慮は無用』と言ったのは、『約束を覚えている』と言ったのと同義なのである。
「時に義之助、お前女は斬れるか?」
肴の豆を指先で弄びながら、まるで『明日の朝は釣りでもするか』くらいの気軽な一言な温度の突然の問いに義之助は一瞬驚いたが、すぐに目を伏せた。
「必要とあらば、な」
「それは真か? えらい別嬪でもか?」
「斬る斬らないに容姿は関係ないだろう」
神妙だった義之助だが、『別嬪』という言葉に力を込める勘佐に思わず表情を緩めた。しかし、対照的に勘佐は真面目な顔付きで唸る。
「そんなことはないだろう。俺は別嬪ならなるべく斬りたくない」
「それがお前を殺そうとしていてもか?」
「別嬪になら殺されるも一興。──だろう?」
義之助はこれはたまらん、とばかりについぞ声を出して笑った。
「だからお前とは気が合うんだよ」
笑いながら勘佐の猪口に酒を注ぐ。
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