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「そうだな。確かに女になら斬られるのも一興。──しかし」
義之助は勘佐の目から手元の猪口に視線を移し、その揺れる酒面を見詰める。
「その前に斬らなくてはならない者がいる」
猪口を揺蕩させながら、一方で言葉の切れ味は鋭く変わり。
「──その後は、そうだな」
かと思えば今度は脱力したかの様に言葉を吐き出しては、自分の猪口を飲み干す。
「お前のような奴に斬られるのも、また一興か」
「やめてくれ。俺に衆道の気はないぞ」
二人は、顔を見合わせて大笑い。
「それに俺はつまらないものは斬らん。──本気のお前なら斬ってみたいがな」
「恐い恐い」
そんな調子で酒は進み、時も進んだ。
時折店外から入り込んでくる風は、だいぶ冷たいものになっていた。
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