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勘佐の章
勘佐には通り名が多数ある。
親しきもの、もしくは表向きのこの男しか知らないものは“素浪人の勘佐”と呼ぶ。
用心棒稼業の折は“仏の奸斬”とも“鬼の完斬”とも呼ばれる。
元々は、この男が国元で寒山と呼ばれる、いつも里に雪を吹き下ろす山中にて幼少期を過ごした事に由来し、身ひとつでこの町に訪れた時「寒山から来た」と呟いた所から“勘佐”と名付けられたのである。
勘佐は、本名を語ることはないが、元来裕福な身であった。
蔵などを持つ里の権力者の子で、親の道楽か、箸をもつより先に木刀を握らされて育った。
剣術大会などにも出場するが、武家の子息には実力敵わず、負けて帰る度に蔵に閉じ込められては反省を促され、幼き勘佐は真っ暗な蔵の中で泣きながら素振りを繰り返した。
そんな己の境遇を、勘佐は当然喜ばしくは思っていなかった。誰もが羨む金持ちの親も、大きな蔵も、恐怖の対象でしかなかった。
そんな勘佐に追い打ちをかけるかのように、十を過ぎた頃、彼は山賊に拐かされた。
寒山を根城にする山賊に、幸運にも勘佐は殺されることは無かったが、その暮らしは筆舌に尽くしがたいものだった。
寒さと飢えに耐え忍ぶ精悍さを身に付けた十五の頃、勘佐は寝静まった山賊たちを皆殺して、山を下りた。
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