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「全く……あの小娘、あんな様子で事を上手く運べるだろうか」
つれない逢嘉祢の態度を思い出しつつ独り言ちる馬鞍戸の歩調は苛立ちについ早くなる。
「しかし、いよいよ我が大願、成就する時が来たれり!」
一転、嗄れた声に愉悦を含ませた爺の顔は最早仕え人とは思えぬもので、馬鞍戸の足の回転は先程よりさらに増していく。
主の仇、義之助を討ち果たすこと。
それは馬鞍戸がこの数年間ずっと夢見、心待ちにしていたことである。
灼けるような夏の日も、凍えるような冬の日も。執念の炎が自身を焦がし、彼をぼろ雑巾のようにしたとしても。
それこそ、今の主である逢嘉祢よりも遙かにその思いは強く。
まさに馬鞍戸にとっての宿願なのだ。
“凄腕の用心棒”とやらが居るという酒場に、またまた髪を振り乱しながら駆けてしまうのも、そういう馬鞍戸だからこそ、仕方のないことなのだろう。
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