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逢嘉祢の章
逢嘉祢はようやく目を覚ました徒治丸の襟を合わせながら、ついつい口から漏れそうになる溜息を飲み込む。
もう七つになるというのに、自分で身仕度ひとつ出来ない頼りない弟を連れての仇討ちの旅。
名誉だ恥辱だ何だと世評ばかり気にしているくせに、一向に自分の身嗜みに気を遣わない口うるさい老人を連れ、故郷を出てからもうすぐ二年になる。
──何故。
そう考えない日は一日たりとてなかった。
──何故。
今もその言葉を飲み込み、徒治丸に足袋を履かせてやる。
南那田義之助が、主人である羽椿箏衛門を斬り殺したのは七年前、徒治丸が生まれて間もない頃のことである。
当時、跡継ぎの居なかった羽椿に待望の男児が誕生し、家中は大いに湧いていた。──それが、妾腹の子だったとしても。
只一人、義之助を除いて。
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