逢嘉祢の章

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 義之助には将来を誓った十五の逢嘉祢がいた。  隠居を目前にした羽椿は、当初、逢嘉祢の十六の正月に、義之助を婿に、と考えていた。  それだけ義之助を評価していたし、義之助もまた、それに相応しい仕え様であった。  だが、嗣子が誕生したとなると話は変わった。  生まれたばかりの徒治丸を可愛がる羽椿は、自身の年齢がそうさせたのか、孫に相対する好々爺のそれで、もしくは徒治丸誕生が相当の難儀で、一時は生死も危ぶまれたというそのか弱さに対する同情の念か、とにかく羽椿は徒治丸を常に手元に置き、義之助を遠ざけた。  家中の皆に伝播した緊張感。  そして、事は起きる。  晩年の羽椿と義之助は、まるで太閤様の秀次様事件を思い起こすもので、義之助が自身に危険を感じた為に凶行に及ぶのも致し方なしと情けを掛ける声も、また、義之助が羽椿の全てが手に入る目前で、その全てを取り上げられた故の破れかぶれの行動と蔑む声も、様々あった。  ともあれ、臣下に主が殺害された家は、理由がどうとあれ多分に漏れずお取り潰し。  家名を復興させるには奸賊義之助を、大義名分の下、誅殺しなくてはならなかった。
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