8人が本棚に入れています
本棚に追加
──と、ここまでが現状までの経緯であったが。
逢嘉祢にしてみれば、全てがどうでもよかった。
義之助様が自分の側に居ない。
その真実一点のみに、逢嘉祢は毎日溜息を飲み込む。
目の前の幼き弟さえ居なければ、今頃は義之助様と夫婦になっていただろうに。仇はこの徒治丸なのではないだろうか。
そう思う夜があった。
熱に浮かされる日が続き、病弱の身でありながら旅を続けなくてはならない弟が不憫でならない。
そう思う夜もあった。
義之助様は、逢嘉祢が耳にした意地悪な風聞通りの悪人なのではないだろうか。
そう思う雪夜を越え。
一生逢嘉祢の幸せの為に生きると誓った義之助の真摯な眼を思い出す。
そんな月夜を越えながら。
逢嘉祢の心は千々に乱れていた。
最初のコメントを投稿しよう!