盲目という男

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盲目という男

 1989年末の車に乗って私は助手席に、彼は運転手に乗っていた。ガソリンを炊かせて、日本の狭い高速道路を駆け巡る。屋根がないオープンカーだったら気持ちいい風が(なび)いているのだろうと想像して走っていた。 「今夜はどうするの?」 走っている中、急に私に聞いてきた。 「ん?どうするって?」 「泊まっていくの?」 「あぁ~、どうしようかな?泊まろう…かな?」 「OK、わかったそうするね。」 と、彼はさらにアクセルを踏んで車を加速させた。車はより高い音に変わり、スピードもぐんと早くなる。 「やっぱり高速道路はいいね。スピードが上がると風が車を横切る音、そして車のエンジンが火を吹く感じ。気持ちがいいったらありゃしない。さらにこんなにも晴れている。」 「そうだね、でも大丈夫か?こっちに顔向いて、前向かなくていいのか?」 「わっと!」 彼は急いでハンドルを90度ハンドルを横にぐいっと曲げる。その瞬間、身体と車は大きく横に向いた。彼が急いでハンドルを切らなかったら…少しズレていたら…私達は壁に激突していただろう。と、その時の私は思った。そして、それからの運転手のハンドルさばきによって壁の激突は抑えられるが、半分怒りを覚えた。 「前も言ったけど、ちゃんと前向いて走れよ。」 「私は前に向かなくてもわかるから関係ないでしょ。」 「だったら、なんで直前まで壁の接近に気付かなかったんだよ。」 「話に集中してたからね~。」 「ほとんど、独り言だろうが。」 ハハッとにこやかに笑い、まるで私だったら、そこまで危険を及ぼさないよ。という顔に見えた。その顔はまるで強固な身体を持っているボディーカードが言うセリフにみたいに自信満々。私ははぁと軽いため息をして…車に身を任せた。  しかしこの男、盲目である。生まれてから物や人を見たことはない。人間の第五感覚の一つがほとんどない状態で生きた男である。そんな男が車のハンドルを握り、運転をしているのである。  しばらくするといつの間にか車は止まって、私は顔に赤い跡がつくほど眠っていた。ゆっくり(まぶた)を動かし、目を凝らしながら身体を起こす。身体を起こした先はコンクリートの壁が見えて、首を横に振り向くと彼はいなかった。すると、車のドアをトントントンと三回ノックするものがいた。彼だ。私は車のドアを開けて、軽く背伸びをし、大きいあくびで口に手を当てる。 「一応、着いてるよ。」 「そうかぁ、そろそろ仕事か…」 黒いスーツを身をまとい黒い鞄を背負って、私達は仕事に向かった。仕事内容はただ言われたターゲットを殺すこと。そう私達はただの殺し屋である。と言いたいが、全く違う。殺すということに全く嘘は言っていない。依頼者の前では…そう。依頼者の前では殺し屋。そして、運転者の彼は私の仕事の相方であり、盲目の持ち主である。
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