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3月−①
3月−①
百年戦争の最中、ジャンヌ=ダルクは何故、槍でも弓でもなく、旗を握ったのだろう。
長く続いた暗い世に立ち向かったのに、新時代を見られなかった聖女。
深夜1時の国道を、派手な電飾を点けたトラックが走る。
音楽の重低音が、住宅地に響く。
赤信号で止まった。
「ダサ」
格好つけてるクセに。
不良がルールを守っても、特別偉い訳じゃない。
当たり前なのに、散々他人様に迷惑をかけておいて、ちょっと良い事したら褒められる風潮が、気に食わない。
その影で何百倍も自分に厳しくして、どんなルールにも抵触すまいと我慢して我慢して我慢してきた良い人達は褒められない。
だって、当たり前だから。
魂に太い鎖でも掛かってるような息苦しさ。
外見で性格を強調したがる意味が分からない。
制服のスカートだって、校則通りで別に良い。
短くしたい人、長くしたい人、勝手にすれば良い。
でも、良い子ぶりたい訳じゃないから、誤解されないよう空気を読んでちょっと膝上。
ルールからはみ出しすぎても駄目、守りすぎても融通が効かなくて駄目。
「大嫌い」
窓枠に信号の青い光が映る。
エンジンをふかして、トラックが走り去った。
誰への何の主張なの、それ。
外聞だけ飾りたくり、他人様に押し付けて。
「ハァ」
どうでもいい。
田舎臭いトラックより、百年戦争。
学年末テスト、最終日の初っ端は世界史B。
「13……意味咲く、意思ゴミ…」
1339~1453年。百年どころか、114年もだらっだら戦争してたとか。
開戦時崇高な理念を掲げていたとしても、終わりの頃には始めた理由も忘却の彼方だったんじゃないの。ゴミじゃん。
むしろ、よくそこから仲直り出来たもんだね。
駄目だ。余計な事ばっか考えてる。
あのトラックの所為だ。
これじゃ遅くまで起きて、勉強してる意味が無い。
スマホの暗記アプリを閉じた。
暗い中で見ていたから、眼に光が残ってチカチカする。
トラックの荷台の稜線にびっしり付けられた電飾みたい。
「腹立つ」
ポニーテールに結んでいた、髪を解いた。
私はモヤモヤする世に苛々するけど、波風立てない。
確固たる信念もなく、進路志望も、得意分野も無いまま。
じき新時代を迎える。
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