4月-①

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

 4月-①

 4月-①  ありがとう平成セール。  横断幕の掛かった大型店。 「いざサンキュー!芋たんの理想贈答品探し」 「何で百年戦争の語呂挟んだの」 「この意思をゴミにしないよう、真剣に参ろう!」 「私の語呂まで採用しなくていいから……」  今は1339年でも、1453年でもなく、2019年。且つ平成31年。  テストはやっぱり、1379年と間違えていた。  他にも自己採点の時点で駄目だった間違えもあれこれ含め、平均点ギリギリ。 「子供用品とは意外と上の方にあるのだな」  案内板を見ていた米っちが、エレベーターのボタンを押した。  下層階は大体どこも、食料品と化粧品な気がする。  高校は春休みだけれど、世間はただの月曜。空いている。  ……この階が空いているのは、少子化の所為かも知れない。  店員さんと目が合いやすくて気まずい。 「米っちに付き合って貰えて良かった」 「家で一人、新元号発表見るのも寂しいからのう」  昼食を摂りつつスマホで見ようぞ、と腕を絡めてきた。 「11時から中継だっけ」 「何になるのであろうな。M、T、S、H以外から始まる字…」 「A~Zの間、もしくはア~ンの間だな。きっと」 「いよっ、預言者!あー昂る荒ぶる」 「何で米っちがドキドキしてんの」 「時代の変わり目であるぞ?凄い時に立ち会っているのだぞ?」  期待はしない。 「我々は今、()の平成の終わり、元号末にいる!終末感たるや、空から恐怖の大魔王が降って来る勢い」 「それ世紀末。しかも七の月」 「平成最後の七の月……もう終わってる……。これから益々、あらゆる事柄が平成最後なのだな」 「庶民は大して何も変わんないって」  何かが変わるようでいて、実際は4月30日が5月1日になるだけ。  後から勝手に、凄まじい伏目だったように、カテゴリー分けされるんだろうけど。 「分からぬぞ。地球の地殻が爆発したり、人類が皆金ぴかに輝くようになったり、長距離弾道ミサイルが飛んで来たりするやも」  何故人体が鹿苑寺よろしく黄金に? 「最後だけは周辺国がこの期を狙ってやらかしてくるかもだけど、前半二つ、改元とどういう因果関係があってそうなるの」 「この改元の裏に、実は秘密があるという噂が」  棚に木製の歯車が並ぶ。 「はいはいオカルト」 「デカルト」 「我思う、故に我あり。我思う、あの玩具はどうだろう」  両手の平を合わせたよりも一回り大きい、木の車。  小さい子用の低い机に屈み、転がしてみる。  中で、コトントコン木琴が音を奏で、木が動く。 「知育玩具だそうだぞ」  米っちが眺めている、壁の説明パネルに目をやった。  車体上部が外れる仕組みになっている。  指を掛けた。 「壊しそう」  少し、力を込める。 「大丈夫ぞ!己を信じ……ないでくれ。裏に留め具があるとな」 「Ohーアブナカッタネ」  中で、形の異なる大きな歯車が5つ組合わさっていた。  車を動かすと、歯車が回り、オルゴールのように連動した(ばち)が鍵盤を叩く。  年齢に合わせて、転がして音を楽しみながら遊ぶか、  歯車をパズルにして遊ぶか、切り替え出来る。  絶対楽しい。しかも安全。 「やっぱ中身。性能第一!」  木琴車と説明パネルを写真に収めた。  あいつらの模型車と合わせて、出産が落ち着いたら送ろう。 「従姉君が、清き一票を入れてくれるよう祈る」 「希望の持てるプレゼンは心が明るくなるよ」  いつもの、またこいつ一人我が侭喚いてら、状態とは違う。 「では、官房長官を観に!いざサンキュー日本の夜明けぜよ!」 「やめてその語呂戦争始まりそうだから……」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!