4月-③

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 4月-③

 4月-③  ベッドでゴロゴロ、スマホを眺める。  勉強アプリを開く気になれない。 「二次元に行きたいのう」  通信アプリに、米っちからのメッセージ着信マークが点く。  元気なフリをしているが、魂の現実離れが進行してしまった。 「そこでジャーナリストになり、あらゆるキャラの情事を素っ破抜き、ゴシップ誌を発行し、  暴露の羞恥に悶える子らを愛で愉しみに浸りたい」  スマホアプリで会話しながら、  服が少々はだけ、髪の乱れた、鉛筆描きの男の絵が送られて来た。  知らないキャラ。多分オリジナルかな。 「俺はホモじゃない!お前だから好きなんだ!  見てろ、俺達の愛を阻もうとする記者なんざぶっ倒してやる!  とゴシップ誌に立ち向かってくる子を弄ぶのもまた一興。  障害がある程、恋は燃え上がるものよ」 「今日は米っちが魔王だね」 「フハハハハハ!」  事件以来、学校は、嫌な雰囲気と化した。  首謀者共、部分参加の奴、知ってて不参加だった人、知らずに不参加だった人。  名前を書かれた子、書かれなかった子。  点数が高くても低くても、すっかり微妙な空気になった。  性格や顔、今まで何とも思っていなかったのに、  それなりの人数から総評で数値化された事で、  あたかも真実であるかのように具体化してしまった。  皆お互いに、元々自分の潜在意識の中にあった感情なのか、  格付けを押し付けられた事で芽生えた感情なのか、  女子生徒同士で壊された距離感を計り直しかねている。  誰の事も、可愛くないなんて思ってなかった。  ニキビが多いのは可哀想だけれど、不細工とは思わなかった。  思春期すぎたらきっと治る。  スカート短くしてるお喋りさんだって、  気は強いけど、性格が悪いのとは違うと感じてた。  今となってみれば、平和な学校だった。  米っち以外の子とも、グループが違うだけで仲が悪い訳じゃなかった。  男子も、友達だと思ってた人は何人もいた。  テスト勉強でノートを貸し合った人もいるし、  席が隣だった時期、授業中こっそり飴を交換し合うのが日課だった子もいる。  米っちも、1年生の最初は扱いづらい子、といった感じだったけど、  皆が慣れて来たらボケたら面白い返しをしてくれる、と喜ばれてた。  絶妙なポジションを獲得してた。 「悔しい」  平成最後を、静電気が走りまくってるような教室で過ごした。  どこにも、うっかり触れられない。 「悔しさか。弱味を握られ、蹂躙される悔しさに咽び泣け、って展開も良いものだな」 「違う」 「芋氏は、傷のある受け&優しく包容力がある世話焼き攻めか、ワンコ攻めが向いているかも知れぬ」 「何の話!?」  米っちの性格評価が最悪だったのは、絶対にこのBL好きが原因。  でもさ、これは趣味じゃないの。  性格は、思いやりがあるんだよ。  話を聞いてくれて、心の中でもやもやしている事を、上手く言語化してくれる。  脳と心臓が何に不快感を覚えているのか、  真っ黒な影を具象化して貰うと、気分が軽くなる。  薄い本いっぱい読み描きしてるから、気持ちを読むのが上手いのかな。  ご飯ーと母親の声がした。 「離脱する!良いお年を!」  洋装剣士が包帯を巻いた手を挙げ、良いお年を!  と言っている絵が来た。  ちょっと好みかも知れない。
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