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4月-④
4月-④
何日か前、元号大晦日は何が食べたいか聞かれた。
寿司と答え、良いわね、と賛同された風だった。
食卓には、骨付きチキン。
そして蕎麦。
あとサラダ。
「どういう組み合わせ?」
「また文句かよ」
箸と取り皿を用意していたら、弟に押しのけられた。
茶碗に山盛りご飯をよそう。
「別に。つっこんだだけじゃんチビ。
主食二つ?」
「うるせ更年期ブス」
何でこいつ、私に対して反抗期なんだろ。
それとも、志望校行けなかった八つ当たり?
高校生になったと言うのに。
いつまでガキやってんだか。
ガキみたいにチビだけど。
絶対160cm台に乗るか紙一重。
弟の箸を食卓に勢い良く置いた。
何やってんだ!と父が脊髄反射する。
別に、落とした訳じゃないじゃん。
ちょっと助走付けて置いただけ。
「寿司は?」
「ほら来た文句!」
「聞いただけでしょ」
考えてみたら、元号明けの健康を祈って、お蕎麦も出さないとと思って。
タンパク質どうしようかと思ったら、弟と父が肉が良いって言うから。
と母が弁明する。
高校に上がってサッカーの練習が厳しくなったから、
体力つけないといけないから。だとさ。
最初から私になんか聞かなきゃいいのに。
タンパク質なら刺身でも良かったじゃん。
「あっそ」
「苛々すんなよ更年期」
「何でアンタにまで更年期呼ばわりされなきゃなんないの」
学校別なのに、教室にいる気分。
ニタ、っとした。
「中学のサッカー部の先輩、選択世界史だってさ、30点ブス」
くっそ。更年期はコイツが発言元だ。
おい、受験生なのに、何で30点取ったんだ、と父が顔を顰めた。
「顔面」
あんたらの遺伝子と、苗字の所為だ。
蕎麦を搔き込み、部屋へ駆け込んだ。
後ろから、平成最後なんだから、食事……と声がした。
「3人の方が団欒出来るでしょ!」
力一杯、扉を締めた。
私を厄介者扱いして、困った娘の相談という、軍法会議で心を通わせれば良い。
今夜も結局、私が村を荒らす魔王として敵視され、勇者達を団結させる役回り。
スマホのカメラを起動し、モードを自撮りに切り替える。
今まで、美人ではないけれど、酷くもない程度の顔だと思ってた。
中の中……中の中の中、くらい。
勉強と同じで、全部平均。
特筆して良い箇所はないが、悪い箇所もない特徴のない感じだと自己評価してた。
赤点ぎりぎりだったなんて。
体育の時、クラスの子に二の腕細くて羨ましいと言われた事だってある。
そりゃお人形さんみたいに可愛いとか、頭から爪先まで華奢とかではないけどさぁ。
画面の中に、芋っぽい嫌な顔が写ってる。
「大嫌い」
見た目、外見、外面、外聞。
外側なんてどこかへ行ってしまえば良いのに。
内面なら、行いが反映される。
ローマ皇帝、マルクス・アウレリウス・アントニヌスは言った。
真実は君の顔に書いてあるし、声にも現れる。
「現れてないじゃん」
人の悪口は言わないようにしてきた。
やたら突っかかってくる弟以外。
文句言ってるんじゃない。
何で、私は蔑ろなのか疑問を呈してるだけ。
それともやっぱり、周囲は関係なく、地の性格で苛々してるんだろうか。
だから、こんな顔で、こんな言葉しか出ないの?
メロスを憫笑した暴君ディオニス並に、誰も信じられなくなりそう。
信じられないから、周りに辛く当たるような人間になってしまいそう。
ジャンヌは強かった。
王に、兵に、国に、教会に、あらゆる人、人ならざる者に裏切られ、
人としてあるまじき暴虐を受けても、
魔女と偽った方がマシな状況に追い込まれても、
信念を通し、清廉であり続けた。
「助けてください」
辛いよ。
平成に生まれ、平成の最後、笑って平成を見送りたかった。
この日出づる国の神々に祈りたいけど、
日本史より世界史を取ってしまったから、
どなたに祈ればいいのか分からない。
八百万の神様、次の時代はもっと勉強しますから、
何卒安らぎをください。
遠くで、カウントダウンが聞こえた。
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