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4月-①
4月-①
ありがとう平成セール。
横断幕の掛かった大型店。
「いざサンキュー!芋たんの理想贈答品探し」
「何で百年戦争の語呂挟んだの」
「この意思をゴミにしないよう、真剣に参ろう!」
「私の語呂まで採用しなくていいから……」
今は1339年でも、1453年でもなく、2019年。且つ平成31年。
テストはやっぱり、1379年と間違えていた。
他にも自己採点の時点で駄目だった間違えもあれこれ含め、平均点ギリギリ。
「子供用品とは意外と上の方にあるのだな」
案内板を見ていた米っちが、エレベーターのボタンを押した。
下層階は大体どこも、食料品と化粧品な気がする。
高校は春休みだけれど、世間はただの月曜。空いている。
……この階が空いているのは、少子化の所為かも知れない。
店員さんと目が合いやすくて気まずい。
「米っちに付き合って貰えて良かった」
「家で一人、新元号発表見るのも寂しいからのう」
昼食を摂りつつスマホで見ようぞ、と腕を絡めてきた。
「11時から中継だっけ」
「何になるのであろうな。M、T、S、H以外から始まる字…」
「A~Zの間、もしくはア~ンの間だな。きっと」
「いよっ、預言者!あー昂る荒ぶる」
「何で米っちがドキドキしてんの」
「時代の変わり目であるぞ?凄い時に立ち会っているのだぞ?」
期待はしない。
「我々は今、彼の平成の終わり、元号末にいる!終末感たるや、空から恐怖の大魔王が降って来る勢い」
「それ世紀末。しかも七の月」
「平成最後の七の月……もう終わってる……。これから益々、あらゆる事柄が平成最後なのだな」
「庶民は大して何も変わんないって」
何かが変わるようでいて、実際は4月30日が5月1日になるだけ。
後から勝手に、凄まじい伏目だったように、カテゴリー分けされるんだろうけど。
「分からぬぞ。地球の地殻が爆発したり、人類が皆金ぴかに輝くようになったり、長距離弾道ミサイルが飛んで来たりするやも」
何故人体が鹿苑寺よろしく黄金に?
「最後だけは周辺国がこの期を狙ってやらかしてくるかもだけど、前半二つ、改元とどういう因果関係があってそうなるの」
「この改元の裏に、実は秘密があるという噂が」
棚に木製の歯車が並ぶ。
「はいはいオカルト」
「デカルト」
「我思う、故に我あり。我思う、あの玩具はどうだろう」
両手の平を合わせたよりも一回り大きい、木の車。
小さい子用の低い机に屈み、転がしてみる。
中で、コトントコン木琴が音を奏で、木が動く。
「知育玩具だそうだぞ」
米っちが眺めている、壁の説明パネルに目をやった。
車体上部が外れる仕組みになっている。
指を掛けた。
「壊しそう」
少し、力を込める。
「大丈夫ぞ!己を信じ……ないでくれ。裏に留め具があるとな」
「Ohーアブナカッタネ」
中で、形の異なる大きな歯車が5つ組合わさっていた。
車を動かすと、歯車が回り、オルゴールのように連動した撥が鍵盤を叩く。
年齢に合わせて、転がして音を楽しみながら遊ぶか、
歯車をパズルにして遊ぶか、切り替え出来る。
絶対楽しい。しかも安全。
「やっぱ中身。性能第一!」
木琴車と説明パネルを写真に収めた。
あいつらの模型車と合わせて、出産が落ち着いたら送ろう。
「従姉君が、清き一票を入れてくれるよう祈る」
「希望の持てるプレゼンは心が明るくなるよ」
いつもの、またこいつ一人我が侭喚いてら、状態とは違う。
「では、官房長官を観に!いざサンキュー日本の夜明けぜよ!」
「やめてその語呂戦争始まりそうだから……」
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