第1章 ブラック・シティ(黒の都市)section5

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 その娼婦が、今、初めてヒューマロイドと伝えられて、ニリーアは、そういえばと思いあたるふしはあったが、館で会ったときは普通の人間にしか見えないリアルな動きをしていたので、やはりセリテアでは無いのだろうか? 「そして、医師の執事は自費で高価なピコ・セル・マシーンを買い求め、弱っていた君に点滴として注入し、激烈な抗体反応を徐々に抑えていった。そのことで彼は主人のボールレンから借金することになってしまったがね」  チェスコンのその言葉にニリーアは驚いた。 「・・・そうだったのね・・・執事のランデールさんが看病してくれたことはおぼろげに覚えているけれど・・借金をしてまで、そうしたなんて・・・なぜそうまでして、私を助けてくれたの?・・あ!」  ニリーアは、今までの話から事の真相が見え始めた。 「もしかすると・・・セリテアは、ただのヒューマロイドでなくて・・・全身がナノ・セル・マシーンで構成されているの? だから体を使って直接の吸熱と排熱ができるのね・・・そして、大人の女性へのメタモルフォーゼもできる・・・つまり、ランデールさんが密偵で、セリテアがメッセンジャーとしてその情報を運ぶ役・・・そうなんでしょ?」  チェスコンは、ニリーアの驚くべき聡明さとその推理力に舌を巻いた。 「・・・どうも、君には隠し事は通用しないようだな・・・もっとも俺も少し話過ぎたがね」  チェスコンは頭を掻きつつ立ち上がると、機械の右腕の表面に浮き上がってきたプラチナ色に輝く仮想アナログ腕時計の長針を見た。 「おや、そろそろ出勤の時間だな」 「え?出勤?時計の時刻では午後の6時のようだけど・・・何の仕事をしているの?」 「こう見えてもパブのオーナー兼マスターなのさ・・・そしてセリテアはパブの看板娘でもある」  そう言いながらチェスコンはネイビーブルゾンを羽織って外出の用意を始めた。 「そういえばグリナダさんは?」とニリーア。 「ああ、奴はバーテンダー兼ボーイだ。俺たちより30分早く出勤して開店の準備をするのさ」  セリテアは、ニリーアの体から手をほどき、立ち上がりつつ彼女に言った。 「ニリーアは、私が娼婦をやっていると知って軽蔑する?」 「そんなこと無い!!」 ニリーアも振り向きつつ勢いよく立ち上がり、セリテアの体をギュッと強く抱きしめた。 「セリテア・・・セリテア!・・・ありがとう! 私を助けてくれて!」 「・・・あなたをスカウトする為だとしても?」とセリテア。 「・・・セリテアはヒューマロイドだけど・・・私が今まで会った人間の中で、一番人間らしいよ!」  ニリーアはセリテアの頬に口づけした。 「・・・良かった。嬉しい・・・」セリテアもニリーアの頬に口づけを返した。  そして、セリテアはニリーアから少し離れて言った。 「・・・これが私のメタモルフォーゼよ!・・・」  ニリーアが言った通りに、全身がナノ・セル・マシーンで構成されているセリテアの顔がモーフィングのように変化し、ものの1分くらいで24、5歳の妖艶な大人の女性の顔に変貌を遂げた。 「さすがに背格好を変えるのは、そんなにできないけどね?」  セリテアはそう言いながらも、やや彼女の身長が伸び、バストとヒップがやや大きくなったようであった。その代わりにややスレンダーになったのだが・・・ 「セリテア、仕事着に着替えてくれ」  チェスコンのその言葉に、セリテアはニリーアに向かってニッコリと微笑み、チェルシルの部屋に入り、3分ほどで、薄いスミレ色とバーミリオンがコラボし、ウェストにベルトのあるセクシーなワンピース、薄いグレーのタイツ、編み上げのブーツサンダル、グレージュのクールカーデで姿を現した。 「じゃあ、行くか。セリテア・・・ニリーア、悪いが君は留守番だ」 チェスコンはそう言いつつ、セリテアを伴って部屋の端の一番大きな扉に向かおうとしたが、ニリーアがそれを制した。 「チェスコンさん!私も行くわ!」  
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