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「・・・帰るところが無いのか?」
「・・・」
男の言葉に少女は僅かに頷いただけであったが、その目はしっかりと男の目を見据えていた。
「俺の家に来るか?」
男の問い掛けに少女は再度、頷き、無言で左手を差し出した。
左手のひらと手首を同時に握られたが、少女はその感覚にハッとした。
(!?・・・手は機械?)
少女は男に支えられるように立ったが、びしょ濡れのブラウスが透けて乳房が見えていることに気付き、ハッと胸を両手で隠した。
「さあ、着いて来な」
男は先に立って歩き始め、やがて回廊の端の非常階段にたどり着くと、どこからか取り出した青い光を放つオプティカルキーで、階段に通じる金網の扉を開くと階下に降り始めた。
「扉は閉めておいてくれ」
男の言葉に少女は金網の扉を後ろ手で閉めると、扉は自動的にロックした。
ここはビルの15階であったので、雨が降りしきる中、1階まで降りるのには滑って苦労したが、二人は何とか地上に着いた。
非常階段の1階の鉄格子の扉も男は先ほどと同様に開き、今度は少女が出てくるのを待って自分で扉を閉めた。
雨はあいかわらずの強さで、多少周囲が見辛かったが、彼女の10m程前に、エア・タフ・モビリティの車が停まっており、ドアロック解除の青い光のシグナルが点滅した。
「助手席に乗ってくれ」
男は運転席のほうに回っていった。
「びしょ濡れなんだけど!」
雨の中、少女は大きめな声で初めて口をきいた。
「構わんよ、気にするな」
少女が助手席に座りドアを閉めると、男は運転席に座る前に後部座席から毛布を掴んで彼女に投げて渡す。
「かけろ。風邪を引くぞ」
男は車のオプティカルキーをセットしたが、AIに発進命令は出さずに手動運転を選択し、車を垂直離陸させた。
エア・トレインの軌道を越えた30m程で、彼はアクセルを踏み車は空中を飛行し始めた。
降りしきる雨は強さを増し、尖塔のようなビル群の先端の赤い炎と立ち上る黒い水蒸気は、空の渦巻く黒い雲とやがて一つに溶け込んでいった。
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