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第1章 ブラック・シティ(黒の都市)section3
ニリーアは部屋に入るなり入口のドアを手動でロックしたが、部屋を見渡してギョッとした。
部屋の左手に薄水色のベッドがあったが、そこに等身大の少女人形が腰かけていたのである。
(人形?・・・顔や手足は人形のようだけど・・・?)
人形は透き通るように白く滑らかな肌で、ほんの僅かにピンクがかっていた。
服は銀色、水色、黒の模様で彩られた薄いグレーのワンピースで、髪は薄いバイオレットのツインテールだった。
ニリーアは好奇心で人形に近づいていく。
「こんにちは」
人形がいきなり顔をニリーアの方に向けて口をきいた。
今まで人形のように微動だにしていなかったので、ニリーアは再びギョッとしたが、直ぐにヒューマロイド(ヒューマノイド・ロボット)だと分かった。
「...あなたは、ヒューマロイドね?」
ニリーアは確認するように言った。
「はい。ヒューマロイドで、名前はセリテアといいます」
人形は体を全く動かさずに、顔と口だけで返事をした。
「私はニリーア・・新入りよ!」
ニリーアは仲間入りしたことを強調するように言った。
「はい、チェスコン様から連絡があったので知っています。では、まず右手のシャワー室をお使い下さい。着替えは私が用意しておきますので」
ヒューマロイドのセリテアは、そう言いながらベッドから立ち上がりニリーアをシャワー室に案内した。
その動きは人間とは異なり、必要な動作以外の動きが全く無かったので、普通のヒューマロイドというよりも、やはり人形を思わせたのだが・・・
「連絡? それは・・いつあったの?」
ニリーアは不思議に思い尋ねる。
チェスコンに出会ってから今までの間、彼が通信をしている様子は全く無かったからである。
「はい、チェスコン様がニリーア様に話しかける直前に連絡をもらいました」
「え?!それじゃ、私がここに来ることは分かっていたってことなの?」
予想外のセリテアの返答に、ニリーアは驚いて聞き返した。
「風邪を引きますので、まずはシャワーを浴びてください。脱いだ服は、この籠に入れて下さい。私が洗濯しますから」
セリテアはチェスコンのように、やや強制的な口調だった。
仕方なくニリーアはシャワー室の前の空間をカーテンで半分だけ仕切り、ぐっしょりと濡れたシューズと、スカート、ニーハイソックスを脱ぎ、続いてブラウスを脱いだ。
ブラは着けていなかったので、後はショーツを脱いで籠に入れ、シャワー室に入った。
温度調整をしてシャワーコックをひねると、湯量は思ったよりも多く、快適に冷えた体を温めることができた。
(はぁー・・・)
自分の長年の居場所を追われた後の、最初の湯浴み《ゆあみ》である。
辛い記憶が甦りそうになるのをグッと抑えて、ニリーアは手早く髪と体を洗い、シャワーを止めると、パワーシーリングブローで髪と体を乾かした。
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