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第1章 ブラック・シティ(黒の都市)section5
時間はそろそろ日暮れ時に近づいていた・・が、地下の家の中では、それは分からない。
いや、地上に出ていても分からないかもしれない・・・何しろ空を覆いつくし渦巻く黒雲からは、止むこと無く黒い雨が降り注いでいたのだから・・・
雨が叩きつける地面の下の家の中では、チェスコンからの辛い話が続いていた───
「・・・そして、ニリーア、君が16歳の誕生日を迎える直前に、ついにCLOI(Chimeric Living Organism Infectionキメラ生命体感染症)(クロイ)を発症した」
チェスコンは話のその部分で、わずかに自身の頬を押えた。
彼の脳裏には自分が発症したときの記憶が、まざまざと思い起こされているようであった。
「何日も続く高熱と、全身に広がる赤黒い痣・・・それを見て、君を追い詰めたはずのジェリア自身も恐れおののき、君を避けて別宅へと逃げて行ってしまった・・・」
耳を塞ぐように両手で顔を左右から抑え、ニリーアは震えていた。
そんな彼女を人形のセリテアは背後から抱きしめてくれた。
(この・・・感じは・・・どこかで・・・?)
ニリーアは、やや震えが収まりつつある中、過去の記憶を思い起こしていた。
「高熱の中で、君はあまり覚えていないかもしれないが・・君を助けたのは一人の執事と、一人の娼婦だった・・・」
チェスコンはそう言いつつ、眉間にしわを寄せ、厳しい顔となった。
「執事と・・・娼婦?」ニリーアは半開きの目でチェスコンを見つめた。
「ただの執事ではない。私設の医師としての役割も持っていた執事だ。そして・・娼婦は毎週末にフランジール家に招かれ、主人に遊ばれた後は、決まって執事たちに順番が回ってきた・・その一番最後が医師の執事だったのさ」チェスコンの顔は厳しいままだった。
「・・・その娼婦の人は大変だったのね・・・なのに私のことを看病をしてくれたの?」とニリーア。
「そうだ。そのとき彼女は3日3晩泊りがけで君を看病した・・・今のセリテアのように背後から抱いて吸熱と排熱をしてくれた」
「えっ?!じゃあ、その女の人は?!」ニリーアはハッとした。
「そう、ヒューマロイドさ。しかも特別な」
(まさか?)
ニリーアは今自分を抱きしめているセリテアの感触に何か懐かしいものを感じていた。
そうだ。毎週末に来ていたその娼婦の女性と時々顔を合わせ、二言三言話した覚えはある。
でも、背格好は小柄でセリテアと同じくらいであったものの、美少女のセリテアとはまた異なる妖艶な大人の美人の顔立ちであったことを思い出した。
(やっぱり・・・別人?)
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