薔薇の伝言

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「迫田さんは知りません?辞めた理由」 「聞いてないな」 「そうなんですか」と、飯塚は残念そうな顔をした。「お二人って何か、人間のタイプが似てるじゃないですか。だから、何か聞いてるかと思って」 「知らないよ」と、迫田は言った。実際、退職を聞いたのは本人ではなく、上司からだった。「理由は健康問題なんだろ?」 「分からないですよ」と、飯塚は言った。「赤城さんって、噂があったでしょう?倫理的な問題を起こして、網紀委員会に目を付けられちゃったって」  エレベーターは一階に着き、二人は無人のエントランスを歩いて行った。ホールには雨の音が響いていた。 「確かに、そういう噂もあったけど」  どこから出た話なのか、赤城が退職して暫く、その手の噂が伝染病のように社内に蔓延した。赤城の退職は一種のゴシップのようにもなっていた。 「円満退職なら」飯塚は言った。「普通、引き継ぎや挨拶がある筈でしょう?なのに、それもなかった。上司に理由を聞いてもはぐらかすだけだし」 「でも、退会命令や除名をされた訳じゃないだろ」 「そうなんですよね」飯塚はそう言い、腕組みをした。「未成年に手を出したとか、上司の妻を寝取ったとか、SNSで不謹慎発言したとか」 「どうだか」と、迫田は言った。「噂話をするような暇があったら、お前はもっと勉強に励め」 「さーせん」飯塚はそう言って頭を下げた。  二人は屋外に外に出た。生温かい雨が降っていた。真っ黒な雨雲が、蝙蝠の大群のように空にひしめき合っていた。
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