獣の咆哮

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獣の咆哮

 緑のトンネルを抜けた先に、空よりも青い海が広がっていた。飛沫を上げる水しぶきはガラス玉のよう。六月の石垣島。人気もない砂浜はプライベートビーチのようでもあった。 「亮ちゃん、連れてきてくれてありがとう」  白い砂浜を見つめながら曜子はそう言った。 「新婚旅行も、まだだったから」と、渡瀬亮は言った。 「凄く嬉しい」曜子はそう言い、渡瀬の手を取った。「今日の事、ずっと忘れない」  結婚一年目、新婚旅行はおろか、結婚式も挙げてやれなかった。ウエディングドレスも、両親からの祝いもない指輪だけの新生活に曜子は文句一つ言わなかった。  二人は大学時代からの仲だった。曜子はいつも渡瀬の隣に居た。どんな事が起きても、彼女だけは渡瀬の傍を離れなかった。 「先に行ってて」渡瀬は言い、腕時計を見た。時刻は昼の1時だった。「海の家でパラソルとか借りてくるから」 「ありがとう」曜子はそう言い、ビーチサンダルを脱ぎ捨て、海に駆け出した。「場所を取っとくね」  渡瀬は手を振り返し、それから海の家に向かった。パラソル、浮き輪が積み重ねられた店頭、椰子の木にはハンモックが吊り下げられていた。
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