缶けり日和

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「ハァ…… 疲れた……」 最近はこの言葉が俺の口癖になってしまった。 会社では、 上からは残業時間の削減だの、生産性の維持だの向上だの、有給休暇消化の義務化だの口うるさく言われ、 下からはセクハラだの、パワハラだの、課長それモラハラですよ、だの。 家に帰れば子供の教育問題、両親の介護問題、住宅ローン、地域やPTAでの役員問題など。 「ハァ…… あの頃に戻りたいな……」 「毎日夢中になって遊んでたあの頃に……」 「あぁ…… そう言えば てっちゃんって言ったかな? 今頃どうしてるんだろう」 当時、同じ団地に住む同級生らと学校帰りに毎日のように遊んでいた。 小学校の3年生だったか俺たちの回りで【缶けり】が流行っていて、いつも近くの神社で缶けりをしていた。 その中の1人に、てっちゃんと言う子がいた。 てっちゃんは軽度の知的障害者だったので普段は支援学級で学校生活を送っていた。 特に声をかけて誘うわけではないのだが気が付くとそこに居て、いつもニコニコしていて、坊主頭で、服がいつも汚れていて。 そう、あの日も神社で缶けりをしていた。 そこには てっちゃんも居た。   いつもなら一番最初にオニに見つかって 「てっちゃん 見いつけた! ポコペン!」ってなるはずが、 何故だかその日は最後まで てっちゃんが見つかることはなかった。 「もしかしたらもう家に帰ったんじゃない?」 「だよね! だったら俺らも帰ろうよ!」 「うん、帰ろう! 帰ろう!」 
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