缶けり日和

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家に帰って夕飯も食べ終わって、お風呂にも入って、家族でテレビを見ている時だった。 学校から電話があり、てっちゃんがまだ家に帰ってこないとの事だった。 警察や消防や教師やPTAの父兄らが総動員で捜索した。 缶けりをしていた神社付近の山はもちろんのこと、川や人が住んでいない民家や使われていない工場跡なども。 次の日もその次の日も思い当たる場所は全ての広範囲にわたって捜索は行われたが、てっちゃんが見つかることはなかった。 しばらくして捜索は打ち切られてしまった。 当時の俺らの小学校では、 「家出して東京に行った」とか 「怖い大人に誘拐されて外国に売られた」とか 挙句の果てには 「神社の裏山に住む天狗に連れて行かれるのを見た」とかの噂までも広まった。 そのうち誰も缶けりをしなくなって、神社にも行かなくなった。 そして、てっちゃんの事を口にする者もいなくなった。 「行方不明者、探しています」の張り紙が色褪せて剥がれ落ちていく頃にはみんな てっちゃんのことをすっかり忘れていった。 そうか、あれからもう35年も経ってしまったのか。 俺は仕事帰りに公園のベンチにグッタリ座りこんで缶コーヒーを飲むのが日課になってしまっていた。 「ハァ…… 疲れた……」  自然とため息が出た。 「ハァ…… あの頃に戻りたいな……」 「毎日夢中になって遊んでたあの頃に……」
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