日和

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日和

 荷車に積んだ麻袋の中、今日もピィピィと悪魔が元気だ。梶棒を引く僕に呼びかけるような高い声。でもそれに(こた)えて袋を開けようものなら、僕はたちまち小さな悪魔たちに取って喰われてしまうんだ。ちゃんと知ってる。だからそんなに鳴いて身動いても、袋の紐を解いたりなんかしてあげないよ。  一度も見たことのない袋の中身に、いつものように話しかける。荷車を引く僕の横、よたよた歩くじいさんに分からないよう、声を出さずに。  道端にはたんぽぽが咲いているのに、行く手から吹く風はまだ冬の乾いた香り。車輪に轢かれた細かい砂が霧吹きみたいにさあっと飛んで、花の黄色をくすませた。  同時に日が陰る。背の高い木々のせいだ。「冷たい森」への入口。僕とじいさんと、袋詰めの悪魔たちしかくぐらない、影の門。  この先で、僕は悪魔を湖に沈めるお仕事をする。
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