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黄色い鳥の元気がないので、僕は急いで岸に戻り、大いびきのじいさんを横目に昼食の包みを開いた。パンを小さく崩したけれど、鳥は食べない。それなら水をと試しても駄目だった。手で包み、息を吐きかけて温めてもみた。でも鳥は間もなく、動かなくなってしまった。
可哀そうに、着地場所を間違えて凍えてしまったんだろう。じいさんを起こさないよう少し離れて、湿った地面をブーツの先で浅く掘り、鳥を埋めようとそっと置いた。
そのとき――鳥がほんの少し嘴を動かして、鳴いた。ピィ、と一声。それ以上は鳴かなかった。
土と落ち葉で鳥を埋める手が、がくがくする。小鳥の鳴き声なんて、大差ないよな。朝、屋根で囀る鳥の声は、どれも似ているもんな。……悪魔の鳴き声にそっくりとは、思ったことがなかったけれど。
「ユベール? 昼飯が残ってるぞ、どこに行った?」
「ああ……ごめん。ここだよ」
「おまえが食事を残すなんて、珍しいな」
「ううん、食べるよ。……小鳥を拾ったけど死んじゃったんで、埋めてきたんだ」
じいさんは麦酒の瓶を手に、ふうんと頭上の枝を見上げた。
「年中『冷たい森』とはいえ春だからな。まだ巣立つには早い子どもが、落っこちたか」
「でもそいつは小さいのに、昨日の鶏より尖った嘴をしてたよ。えらいもんだね」
「そりゃ、鶏に失礼だ。鶏だって立派な尖った嘴を持ってるさ。習性で、いろんなものをつつくんだ。それが仲間もつついちまったりするんで、お互いに傷つかないよう、小さいうちに嘴を丸めてあるのさ」
話しながら、じいさんがゆで卵に罅を入れる。
「そうか、鶏も人間と同じで、最初は小さいんだね」
殻をむく手が止まった。
「最初は小さくて、だんだん大きくなるんだ。だから卵に入っていられるんだね。じいさん、鶏は小さくても、最初から白い体に赤い頭で、あんな強面なのかい」
差し出されたゆで卵を、返事を待ちながらかじる。僕はほくほくの黄身が好きだった。たんぽぽみたいな黄色――埋めた小鳥と、同じ色。
「そうさ」
じいさんの返事は短く、それだけだった。僕は喉につかえる卵を水で流し込み、笑って見せた。
「だから昨日、あんなに笑ってたのか、恥ずかしいな。ああ、お腹いっぱいで眠いや。僕もちょっと、昼寝していいかい」
もちろんさと微笑むじいさんの口元は綻んで、ふうっと深い息を吐いていた。
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