ひよこ日和

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 袋の口を閉じ直す。少し緩くてもいい。余らせた紐を袋の底の一端に結びつけ、胸の前に斜めにかけて袋を背負い――僕は、森への長い道を駆け下った。  家への曲がり角を通り過ぎる。涙が溢れた。  僕、何をやっているんだろう。じいさんがオーナーに怒られる。オーナーのことも、生かしてもらったのに、裏切って。  でも二人とも、嘘を吐いた。鶏は最初から鶏じゃなかった。悪魔なんていなかった。こいつら――ひよこって言うんだろう? ただ卵を産めない雄ってだけの。ただの鶏の子どもなんだろう?   余計なものを養う余裕はない、分かってる。だから僕はいつも、余計なものにならないように働いた。  でもそれが、こいつらを殺すためなんて。こいつらの命で、僕が生きているなんて。家と食事の恩を返すので精一杯の僕がこれ以上、ひよこの命の分までなんて、どうやって、一体誰に返したらいいんだ?  朝日が昇る。走る。走る。養鶏場の出荷の馬車も、山に豚を放しに行く人も、誰も通らないうちに。全力で駆けた森までの道は、切り取られたみたいに短かった。  採石場に寄らないと、湖はすぐだった。湖の上を真っ直ぐ行けば、僕が生まれた町への道まで遠くない。滑って転ばないように、だけど急いで。そうだ、ひよこたちは寒さが苦手みたいだから、袋を抱っこして行こう。走りにくいけど仕方ない。  僕が拾ってもらったみたいに、この子たちだけでも助けるんだ。町にはきっと人が戻ってる。違う仕事をして、何とか。
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