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何とか……できる、だろうか?
熱くなっていた頭が急に冷えたとき、疲れきった足が、滑った。
腕から袋がすっぽ抜ける。何とか踏みとどまる、でも足元が不意に崩れ――氷に、穴が。
冷たい水が刺さる。掴まるものが見つからない。服が重くなる。水底へ、引っ張られる。僕がひよこを沈め続けた、水底へ。
ああそうか、「冷たい森」の意味。冷たくなるひよこたち、手を下す冷たい人間。そういうことだったのか……。
朝日が眩しいはずなのに目の前が暗くなり、頭が沈む寸前。ぽこんと、やわらかい衝撃。ぽこぽこ、ぽこぽこ。
え、何で皆来るのさ! 冷たいの苦手なんだろう、飛び込んできちゃ駄目だ。僕を引き上げたりなんか、できっこないのに。
ひよこたちを残して体は沈み、明るい水面は空のように遠くなる。苦しい。冷たい。
でもまだ僕を探しているひよこたちが光を受けて、小さなたくさんの太陽のように輝くのを見たら――少しだけ、水が温んだ。
ごめん。ありがとう。助けようと思ったのに、また助けられている。
これからちょっともがくと思うけど、気にしないで。終わったら大好きな父さんと母さんに会えるんだ。君たちのこと、話の種にするよ。
父さん、母さん……じいさん。僕の最後の日の空模様は、ひよこ。
とてもとても暖かくて、優しい日和だったんだよ。
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