昼寝日和

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昼寝日和

 早朝、悪魔を引き取りに養鶏場へ行くと、オーナーに昨日の答えは出たかと尋ねられた。素直に「さっぱりです」と答えると、豪快な笑い声が返ってきた。 「今日は少ないぞ。次はもっと減りそうだから、明日は休みにしよう。じいさん、俺は夕方から留守にするから、今日の報告はいい。のんびりしな」  藁置き小屋の片隅、麻袋は二つだけだった。荷車に積み込むとき、ちくっと(てのひら)に何かが刺さった。見ると、袋の一部がほつれている。穴は開いていないから、いいか。  麻は丈夫だけど、擦れると痛い。慣れっこだ。でもさっきのはもっと尖っていたような。 「せっかくだ、早く終わらせて休むとしよう」 「それまでに疲れないようにね」  森に近づくまでにぐんぐん気温が上がり、じいさんはご機嫌だった。木々の間は別として、日当たりのいい湖の周りは、「冷たい森」とは思えない。  湖面の氷も少し溶け出し、濡れたところがいつもより滑った。面白いけど、荷車は置いていくことにした。木の下に座ったじいさんの横で袋に石を繋げ、まず一袋持って、いつもの穴に捨てる。石のせいで重たいけれど、なんとかなった。  二袋目を取りに行くと、じいさんは日向(ひなた)でうとうとしていた。まだ僕の仕事は終わってないのに、見張らなくていいのかな。まあ暖かいし、夕方の仕事はないし、絶好の昼寝日和だ。そっとしておこう。僕は静かに、二袋目を運んだ。手が疲れて石を両腕で抱き、紐を右肩にやって袋は背中に回した。  いつもなら氷の上では静かな悪魔たちが、今日はまだ鳴いている。こいつらも暖かいのが好きなのか。これからの季節は嫌だなあ。  ため息を()いて、穴の中に荷物を沈める。泡が消えるまで休憩して、さて昼食だと立ち上がり、じいさんの方へ戻ろうとした先に――何かが落ちていた。  黄色い。たんぽぽ? さっきはなかったぞ。氷の上に咲くわけないし。  近づくと、それは僕の片手に乗るような、見たことのない鳥だった。どこから飛んできたんだろう。ぶるぶる震えて寒そうなので持ち上げる。鳥でも昨日の鶏とは違う、幼い感じの顔だ。頼りなげだけど、嘴は鶏よりも尖っている。
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