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由佳が歩いてドアを開けると、椅子にそれぞれが座っていた。
「お父さんが皆さんにお入り頂いて、と言っています。」
絋が立ち上がる。
「お2人も。お願いします。」
由佳は、大藤と沢木にも声をかける。
大藤はいつも通りだが、沢木はひどく、戸惑っているように見えた。
「い…いや、俺は、…絋を連れてきただけだし。」
「どうしてもお嫌でしたら、無理にとは言いません。けど、お父さんは入ってもらって、と言っていたので。」
「沢木さん、大丈夫ですよ。」
大藤は沢木の肩をポン、と叩く。
沢木は大きく息を吐いた。
「分かりました。」
カラリとドアを開けて、みんなで病室に入った。
「お父さん…」
「絋。皆さん、うちの子がいつもお世話になっています。」
その楠田の穏やかな声に、大藤と沢木が緩やかに頭を下げる。
「大藤さん、いつぞやはありがとう。あなたの奔走があったから、絋ともこのように顔を合わせることが出来るようになった。」
「いえ。お具合はいかがですか。ご無理なさらず。」
「うん。」
楠田は大きくため息をつく。
「どうしたものかね…。」
店の事だと皆、察する。
「僕はお店を存続させたいです。」
その場にいた誰よりもいち早く、絋が声を上げた。
「そうか…。」
楠田は考えるような仕草だ。
「実際は亭主が倒れた、とそれだけの話なんだが。」
「あの…。」
寡黙な沢木が声を出す。
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