あなたの名は

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あなたの名は

私がその人を最初に目にしたのは、歩いている姿を見て、だった。 百貨店という場所柄、オシャレな人も、最新のファッションをしている人も、たくさんいるけれど、その人が着ていたのは、極々普通のスーツ。 けれど、身体に綺麗にフィットしているそのラインは、おそらくオーダーなのだろう。 シャツもキチンとプレスされていて、薄く柄が入っているのが見てとれた。 スーツと、シャツにコーディネートされたネクタイはお手本のような、セミ・ウインザーノット。 きれいな結び目の三角形が、スッキリした顎のラインにぴったりで、自分をよく分かっている人なのだな、と思わせた。 ぴしっと整えられた、髪型と、フレームレスの眼鏡。 ともすれば、冷たくなりがちな印象なのに、口元に笑みを浮かべて、お客様をアテンドしていた。 綺麗な姿勢。 歩く時も姿勢が緩むことはなく、真っ直ぐした背筋が保たれたままで、言うなれば、隙のない印象の人だ。 誰だろう…? 襟の社章はデパートのもので、ゴールドのネームプレートは管理職ということになるのだけれど。 一緒にいるのは、品のよいご婦人だ。 外商? まさか、その人と別の場所で顔を合わせることになるとは、全く思わなかった楠田由佳(くすだ ゆか)なのだった。
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