朝が来るまで

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パタパタっと由佳が支度をして、そっと部屋を出て行ったことに、大藤は気づいていた。 由佳が目を覚ました少し前に、目を覚まして、その寝顔を堪能していたから。 目を閉じて、柔らかい光に包まれていた由佳は、本当に可愛らしかった。 朝の光の中で見ても、きめ細かくて、白い肌は、指で辿りたくなるくらいだ。 とても、綺麗なのに、なぜか自分は可愛くない、と思い込んでいて。 なぜでしょうね。 大胆なような、無防備なような、そのギャップや、恥ずかしがる様子は、可愛くて仕方ないのに。 計算尽くで、大藤と関係を持とうとするような子より、よほどいい。 その時、由佳が身じろぎしたので、大藤はそっと目を閉じたのだ。 由佳がどうするのか、知りたくて。 そっと、起こさないようにベッドを出た彼女は、ささっと服を着て、そっと部屋を出て行った。 パタン、と玄関のドアの閉まった音を聞き、大藤は、ベッドに身体を起こす。 「逃げられたか…。」 自嘲的な笑みがこぼれた。 最低なところを見られているのだし、昨日の提案自体も、よく付き合ってくれたと思う。 彼女に声をかけ、秘書室に戻って、名前から確認したら、自分の雇い主の1人である、成田翔馬の交際相手である、元宮奏と同じ勤務先だと分かった。 その時、思い出したのだ。 社員食堂で、その元宮奏と食事をしていた、その楽しそうな笑顔。 あまりにも、表情が違うので、分からなかった。 最悪なところを見られたと思う。 大藤のことを、最低な男だと思っただろう。 それでも、あんな茶番に付き合ってくれた。 大藤はサイドテーブルに置いた、眼鏡に手を伸ばす。 自分にしては珍しく、どうしても欲しくて、連れ込んでしまったけれど、お酒も入っていたし、由佳にはなかったことにしたい出来事なのかも知れない。 「行いが悪すぎましたよね…。」 ふう、とため息をついて、支度をするべく、大藤はベッドを出たのだった。
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