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離脱
「由佳ちゃん!」
空港にいたのは、兄の紘とその恋人の沢木の姿だった。
到着ロビーでは、背の高い沢木と、綺麗な紘が由佳を出迎える。
由佳の姿を見て、絋が駆け寄ってきた。
「お兄さん?!」
紘は、いつもとは違うシャツとパンツだ。
沢木もジーンズにブルゾンという姿である。
しかも、少し様子がおかしい。
顔色は白っぽくて焦っている感じだ。
「どうしたんでですか?」
「由佳ちゃん…!」
絋がこんなところまで来ることが、尋常ではない。
絋の揺らぐような瞳に、由佳は背筋が寒くなった。
「何か、あったの?」
由佳の声に、大藤が近くに来る。
紘はその大藤の姿を認めた。
「大藤さんもいらっしゃるんだ。もし、差し支えなかったら、一緒に来ていただけますか?」
由佳と大藤は顔を見合わせたが、大藤は迷うことなく由佳に頷いた。
「行きましょう。由佳。」
「すみません、皆さん、失礼します。」
「お疲れ様、何かあったら、メールして。」
その場にいた末森にそう言われて、はい!と返事を返しつつ、由佳は絋の後を、大藤と一緒に追う。
そして、その場に残されたメンバーは、
「なぜ、楠田さんのお迎えに、大藤?」
と首を傾げる成田翔馬に、唯一、心当たりのある奏があわあわと焦るばかりなのだった。
一方で、早歩きで駐車場に向かう絋と沢木、由佳と大藤だ。
あまりない事態に胸がどきどきして、不安な気持ちになる由佳である。
空港には、沢木が車を出してくれたようで、ワンボックスカーが駐車してあった。
そこにみんなで乗り込む。
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