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「助かりました。大藤さんがいてくださるとは思わなかったので。あなたにもご連絡した方がいいか、迷っていたんです。」
全員が車に乗ると、
「出します。」
と沢木が急いだ様子で車を出した。
「お兄さん、何があったの?」
「お父さんが倒れたんです。」
それを聞いて、由佳の喉の奥がひゅっとなる。
「お父さん、が…?」
隣りにいた、大藤が由佳の手の震えに気がついてその手を握る。
そうして、由佳の身体をぎゅっと抱いた。
由佳はその温かさに、気持ちが落ち着くのを感じる。
そうなのだ。
今は1人ではない。
側に、大藤という心強い味方がいてくれるのだから。
「倒れたって容体は?」
大藤の声に、絋が返事を返した。
「脳梗塞?脳内出血?分からないけれど、そのような感じのものらしいです。今は意識はありますし、命に別状はないそうです。」
よかった…とホッと一安心する2人だ。
「しかし、『くすだ』があります。あそこを回していかなければならない。」
父親の容体が大丈夫だと言っても、絋の表情は硬いままだった。
「絋さん、それは、お引き受けされるんですか?」
あれほど、頑なに『くすだ』の敷居は踏まないと言ってい絋が、追い詰められたような表情をしていた。
「なにも、…全くなにも分からないんです、僕は。けど、はっきりしているのは、あそこをなくしたない。その気持ちだけなんです。」
もどがしげに、絋は早口で告げる。
「お母様はいかがなんです?」
「母はダメです。」
キッパリと、絋は言い切った。
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