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飛行機の到着便が夜だったため、病院の時間外出入口から、中に入る。
静かで、しん…としていて、ロビーにも人はいない。
「ここの、ドクターがうちのお客様ですぐ見て下さって、病室も手配してくれたんだ。」
無事に一通りの治療が終わり、お礼を言った紘に『彼はある意味日本の宝ですから。』とドクターは笑っていた。
病院に到着しても、紘は病室に入ろうとしなかった。
和解したとは言っても、まだ、少しためらいはあるようだ。
「お兄さん、入らないの?」
「ごめん、由佳ちゃん。入っていて。」
由佳はこくり、と頷いて、病室のドアをそっと開ける。
「由佳。」
楠田はベッドで身体を起こしていた。
薄暗い病室で、目を開けてぼんやりしている様子にいつもの覇気を感じず、少し、切ない気持ちになりながら、由佳はベッドに歩みよる。
「お父さん。大丈夫なの?」
「うん。発見が早かったので、助かった。」
「お母さん、付いてたのね。」
個室のソファで、肘掛を枕にして、母は眠ってしまっていた。
毛布が掛けられている。
その母を、父は温かい瞳で見つめていた。
「というか、お母さんがいち早く気付いて、病院まで、運んでくれたんだ。救急車を呼ぶより、良かったかも知れませんとドクターが感心していたよ。」
疲れたろう、と父が母を見る、その表情は優しい。
「由佳、絋は来ているな?」
「はい。外にいます。」
父は苦笑した。
「本当に、誰に似たのか頑なだな。アイツは。」
「お父さん、お兄さんのお相手の方が連れてきて下さったの。」
「そうか…見所がある…と板長代理が感心していたが。一緒に入ってもらいなさい。」
「大藤さんもいます。」
「大藤…?…あの時の、立役者かな…。そう、彼も…。こんな姿だが、差し支えなかったら、入ってもらおうかな。お礼を言いたいし。」
「はい。」
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