離脱

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たおやかなようでいて、凛としている。 柔らかそうでいて、揺るぎなく、とても強い信念を持っているのだろう、と思わせた。 確かに、得がたい人物だ。 それに、ひどく惹き付けられる魅力のある人だった。 なるほど、絋と由佳の親なのだな、と納得出来る。 「突然、お伺いして申し訳ありませんでした。どうぞ、ごゆっくりお休み下さい。」 病人の前で、長居してしまった、という、大藤の声にそれぞれがはっとして、病室を出る。 はーっ、とため息をついて、紘は廊下の椅子に座り込んだ。 その正面に沢木が膝をついて、そっと、紘の頭を撫でる。 「由佳ちゃん、大藤さん、明日、僕達の方のお店に来てください。話がしたいので。あと、由佳ちゃんは明日、『くすだ』の様子を見に行ってくれる?」 「分かりました。」 「お2人はこのままお帰り下さい。私たちは、タクシーで帰ります。」 と大藤は絋と沢木に伝える。 「でも…」 そう言う紘に大藤は、首を横に振った。 「今日のところはそうしましょう。ね?」 絋はしばらく考えて、こくり、と頷いた。
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