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『報告書』と書かれた分厚いファイル。
前回はさらりと流し読みしただけだが、今回は違う読み方をしなくてはいけない。
報告書を読み込みながら、ページをめくっていた、その時、 デスクに置いていた携帯が着信を知らせた。
電話の相手は思いもかけない人物で。
それから、大藤は何件か電話で連絡を取る。
そのうちの1件は、自分の上司である、成田だった。
『なるほど…ね。』
電話の向こうの成田からは、なるほど、と言いつつも戸惑いは感じなかった。
何があっても、揺らがない人なのだ。
もちろん規模は違えども、成田自身が老舗の跡取であったことには変わりない。
今回の件について、ひと通りの説明をしたところだ。
それと、大藤自身の意思も。
『大変だとは思うが…。まあ、大藤がやってみたいと思うことを邪魔することはできないよ。
本社の退職は手配しておくが、うちの個人秘書は引き続き兼務で構わないので、お願いしたいな。君がいないと困るんだ。今までと同じペースで構わないから。』
「けど…いいんですか?」
『言っただろう?君がいないと困るんだよ。それに、近くにいればお互い何とか出来ることもあるからね。』
「すみません…。ありがとうございます。」
『うん。いい報告を待っているから。』
「はい。」
電話を切って、しばらく大藤は、手元の携帯を見つめる。
温かい言葉だった。
いつもそうなのだ。
成田にもらったものはたくさんある。
居場所、安定した収入、そして、海千山千の経営者との駆け引きや、経営者としての在り方。
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