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見つめる瞳
どうして…こんなことになっているの…。
由佳は目の前で、怜悧な笑みを浮かべる大藤を、ただ見つめることしか出来なかった。
「どうしました?息が…早い…。」
楽しそうで、そのくせ冷静で。
由佳はただただ、息を乱して、その瞳を見返すことしかできないのに。
食事に付き合ってほしい、と大藤に言われて、そのコース料理を食べることになった由佳だ。
子供の頃から、食に関しては、かなりうるさく言われているし、自分の舌にも自信がある。
しかし、由佳は普段それを表面に出すことはしないようにしていた。
食事は味だけではない、と思うからだ。
その時の、気の合う友人であれば、一緒に過ごす時間を楽しむもので、料理はさらにそれに味を添えることが出来たらいい、くらいに思っている。
今度、お客様を招待する、というそこは、披露宴なども行われるようなレストランで、雰囲気の良さや、オシャレ感のあるところだ。
んー…見た目はゴージャスだけど…造りは大したことないなあ…。
確かに、白い柱や、綺麗な壁紙は写真映りが良さそうで、披露宴には映えるかもしれないけれど…、入り口を見回して、由佳はそんな感想を抱く。
「オシャレ…ではありますね。」
「そうですね。」
多分、大藤も違和感を感じているのだろうと思い、同意する。
そんな由佳を見て、大藤はくすっと笑った。
「今日はあなたの感想も是非聞かせてください。」
「は…あ…。」
いいのかな、本当のことを言って…。
先日と同様に、大藤はやはり甘い雰囲気、というよりも業務的だ。
「見た目はいいですけど、造りは…ですね。お客様がお若い方なら喜ばれそうですけど。」
「同感です。」
席に案内され、コース料理をいただく。
綺麗なクロスのかかったテーブルに、可愛らしいカトラリーレスト。
テーブルの真ん中に、小さな花のアレンジメントとキャンドルが置いてある。
基本的に悪くはない。
お料理については、前菜から綺麗に盛り付けされていたし、見た目にも楽しめた。
でも、味は…普通、なんだよね。
他のテーブルは、デートで来ている人が多いようで、可愛い!綺麗!美味しい!と盛り上がっている。
由佳は淡々を食事をしている大藤を見るともなく、見る。
相変わらず綺麗な姿勢。
大きすぎず、小さすぎず、適度な量を口に運ぶ様は品がある。
テーブルマナーも慣れていて、戸惑いは一切感じさせないのはさすがだ。
ナイフとフォークを自然に操って、食事を進めている。
由佳はマナーの良い人と食事をするのが好きだ。
それだけでも、美味しい、と思えてしまいそうで、本来の目的を忘れそうになる。
ダメ、雰囲気に流されてはいけない。
お客様をお招きするのにどうか、ちゃんと考えなくては。
食事を進めながら、つい、難しい顔になっていたかもしれない。
「由佳…、言いたいことがあるんでしょう?」
笑いをかみ殺すような顔で、大藤がこちらを見ていた。
見抜かれている。
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