美味しく頂きました

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「お二人はどちらで、お知り合いに?」 「職場が同じなんです。」 淡々と、大藤が答えた。 「ああ、デパート…。」 「ええ。彼女の上司が、私の上司と知り合いでして。」 大藤はすました顔で、そんなことを言った。 この人、本当に悪い人だ。 こんな、虫も殺しません、みたいな顔をして、平然と嘘をつく。 適当に誤魔化しておけばいい、と言われた由佳はにっこり笑う。 初耳ですけど。 「知り合いのご紹介ですか。」 「いえ。正確には、私の一目惚れに近いんですよ。彼女を社員食堂で見かけて。」 なんて人なの?! しゃあしゃあと、淡々と、そんなこと言うなんて。 由佳の頭の中では、こいつ、からこの大嘘つき、に格下げだ。 しかし、食事は完璧だし、個室なので雰囲気も気分もよく、美味しいワインでさらに食が進む。 「由佳、あまり飲みすぎないように。」 「美味しいんですもの。」 大藤が苦笑して、由佳を見る様は、本当の恋人同士のようだ。 その様子を見て、今日の主催である男性も納得したようだった。 「今日は楽しかった。また、機会があれば、お会いしましょう。」 男性はそう言って、運転手付きの車に消えた。 それを見送って、やっと肩の荷が降りた由佳である。 「良かったんですか?」 「何がです?」 先程までの甘やかな雰囲気は、全くない。 他人、とまではいかないが、友人くらいの距離感だ。 「だって、逆玉だったんじゃありません?」 「逆玉…?そんなものに興味はありませんよ。」 「じゃあ、大藤さんは何に興味があるんですか?出世とか?」 「さあ…。…楠田さん、酔ってますか?」 「酔ってませんよ。だってー、結婚にも、交際にも興味なくて、逆玉にも興味ないって、何に興味あるのか、知りたいですもん。」 「そんなこと知ってどうするんです?」 「だってー、知りたい、知りたーいっ!」 「あなた、酔っているでしょう?」 「酔っていても、酔っていなくても、大藤さんには関係ないんでしょ?」 「どうでしょうか?そうとは限りませんよ。」 とても、悪い、顔…。 何かを観察するような、冷めた瞳と、にっと引き上げられた口角。 そんな、顔でするっと頰を撫でられても…。 躊躇いなく、顎に触れるひんやりした指の感触。 「由佳…、私に興味あるんですか?」 また、唇が触れそうに顔が近い。 「何、呼び捨てしてるんです?」 「名前を呼ぶと、あなたの表情が、一瞬変わるから。それが見たくて。」 その低くてセクシーな声で呼んだりするからでしょう。 「近い…です…。」 「部屋に来ませんか…?」 「そ…れは…」 「子供じゃないんだから、分かりますよね…。」 胸が、ドキンと音を立てた。 そんな風に、言うなんて。 分からない、なんて逃げることを許さないような。 それは…確かにそうかも、だけど…。 子供では、ない。 指先が、顎から首筋をすっと、撫でられる。 柔らかく触れながら、指は首から耳を辿り、くすぐるように撫でられた。 「…ん…っ。」 思わず、首がすくんでしまう。 その感覚が、くすぐったいのか、感じたのかは分からないけれど、思わず漏れてしまった声に、くすりと笑われたのは、間違いない。 「や…。」 「本当に?」 耳元で囁かれた声。 その声には面白がる響きが含まれていた。 最初はその綺麗な顔と、一分の隙もないスーツ姿に惹かれて… きれいな姿勢や食事の仕方や、相手の話を聞く時の目を伏せる様子とか、 眼鏡を上げる時のすらっとした指も、 くっと口元を引き上げて笑うのも、自然に笑った時の目尻のシワも… 絶対に、絶対に好きになっちゃいけない人。 けど…無理…。 だって、心の中でこれだけ、思い浮かぶってことは、もう好きだから。 けれど、それを知られてはいけない。 好きって言って、あの冷たい瞳で、興味ないですね、と言われたら、きっと立ち直れないから。
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