真っ赤なアドニス

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真っ赤なアドニス

 春なのに物悲しい。   光と色にあふれ、温もりが世界を一変させる時。四つの季節の中で最も待ち焦がれ、歓迎される季節。それが春。しかし、今年の春は、私にとって霞んで見えた。外の景色の彩りは、間違いなく美しい。私にそれを感じる心がないだけだ。 見慣れた街並みや、街道を飾る木々が通り過ぎている。馬車から見えるすべては色あせ、ただただ通り過ぎていくだけだ。今、進んでいるこのバーマン家までの道は、おそらくもう使うことはないだろう。我がクィンシー家とは縁もゆかりもないバーマン。私が『言の葉の友』という読書会に出会わなければ一生知ることはなかっただろう。上流階級の子女で構成されたこの読書会は、今日をもって解散する。会は今年の秋で五年目を迎える予定だった。五年の壁を超えることなく、言の葉の友はひっそりと散ろうとしている。  私は半年前に言の葉の友に入会した。きっかけはクィンシーで雇っていた家庭教師の勧めだ。たくさんの本に触れながら、他の人と意見交換ができる。私は読書会の活動に大いに興味を持った。わずかな時間だったが、楽しいひと時を過ごすことができた。  今日は最後の交流会。いつものように本の紹介や研究発表を行う予定だったが、結局、お別れ会と称した茶会を開くことになった。
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