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「もうすぐ着くね」
景色の奥に見える小高い丘。その上に一本の大きな樫の木がある。これが見えると、あと十分もすればバーマンに到着する。何度も通って見つけた目印。もう、見ることはない。癖で口をついて出た言葉が、通り過ぎる景色に流される。
「エレン、さみしいの?」
私の横に座っていたリズィーが、ちらりとこちらに視線を投げる。彼女は二つ年上の私の従姉リズィー・アスキス。半ばクィンシー家に居候している私の遊び相手だ。言の葉の友の会員ではないが、休憩時間に開かれる茶会目当てにいつも私についてきている。今日も平然といつも通りに同行している。
リズィーは心配そうだ。そんな言葉を言わせるほど、先ほどのひとり言は沈んで聞こえたのかもしれない。
「うん、まあ」
本や勉強のことを楽しく話す相手はもういなくなってしまう。母は勉強に没頭することを良しとしていない。今までは会で発表があるからと、何かにつけて資料や本をねだることができたが、もう無理だろう。これからは、勉強できなくなる。はっきりしたことはよくわからないが、私は勉強よりも芸術や料理、裁縫ができた方がいいらしい。それゆえか、私に知識を詰め込もうとする家庭教師を解雇してしまった。本のない世界がこれから待っている。言の葉の友が解散することはもちろん悲しいが、それ以上にこれからのことが心配だ。
「でも、ホントはよかったんじゃないの?」
リズィーは私の胸の内とは真逆のことを言う。
「そんなことない」
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