真っ赤なアドニス

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「へぇ、あんな年の離れたお姉様方に囲まれて、窮屈にしていなきゃならないなんて、嫌よあたし。ベネット姉様がいるから平気だったけど、あんたよくやるわね」  確かに、年上の女性ばかり沢山いて肩身の狭い思いをしなかったわけではない。私は今年で十四だ。一番年の近い会員はベネットしかいない。会員以外ではリズィーがいるが、彼女は発表中では空間に鎮座するだけの飾りにすぎない。多くの会員は二十代前後。彼女たちから見れば私なんてお子様だ。  私が今日まで読書会に参加できたのは、ベネットのお蔭だ。ベネット・シンプソンは四つ年の離れた言の葉の友の会員で、私に次いで年の若いメンバーだ。初めて参加した時から何かと面倒を見てくれた彼女。私だけでなく、リズィーにも気を配ってくれた。心優しい彼女を、私たちは親しみを込めて『姉様』と呼んでいる。血のつながりがなくとも、友情以上のものを感じる存在だ。  黙ったままの私をそのままに、リズィーは話を続ける。 「それに、世間の常識から逆行していくような人たちもいたじゃない。なーんかね、ついて行けないって気持ちになるし」  言の葉の友の会員の中には、女性の権利を強く主張する人たちがいた。男性固有の権利を女性も持ちたいという主張だ。難しいことはわからないが、権利を訴えることはすごいことだと思っていた。 「あの人たち、ぜーったい普通の人たちに叩かれて、表に出れなくなるに決まってるわ。気持ちはわかるけど、そんなこと言って不自由になるなら、そんなことを言いだしたくなるなら、教養以上の知識はいらないわ」  リズィーはやや強い語調でまくしたてる。その発言が、私の信条を傷つける。知識は未来を照らす希望の光だ。それを得る努力の何が悪いのか。  彼女は続ける。 「周りのことなんてなーんにも気にせずにいたら、楽なのことこのうえないでしょ? 知らない世界のことはほっといて、甘ーいお菓子と楽しこといっぱいに囲まれていられればそれでいいじゃない?」 反論しようと口を開こうとした。 「つらいことを重ねるくらいなら、一生、バカでいた方がマシ」  リズィーの発言が重くのしかかる。  私は閉口した。今の私では彼女の言葉の意味など、到底理解できないのだと愕然とした。そして、根拠もなくリズィーが今見ている世界をこれから私も見るのだと確信した。  リズィーは虚空を睨みつけている。彼女は私の視線に気づくと、取り繕うように笑った。 「えへへ、気にしないで」  彼女の笑顔が妙に大人びて映った。
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