真っ赤なアドニス

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  それからほどなくして、車輪の音が止まった。 「エレノア様、リズィー様。到着いたしました」  御者の声に応じて、私たちは馬車を降りた。バーマンの玄関口には、もう一つ馬車が止まっていた。小さな箱からゆっくりと、ひとりの淑女が現れる。ベネットだ。私は思わず駆け出した。 「姉様‼」  ベネットは声に驚き振り向いた。彼女の細い体に抱きつく。 「まあ、エレンったら」  ベネットは困ったように笑いながら私を抱きとめた。 「こらっ、エレン、姉様びっくりしてるじゃない」  後から追ってきたリズィーがたしなめる。 「ごめんなさい。姉様」 「うふふ。いいのよ。元気そうで何よりだわ」  ベネットは絶えず聖母のような柔らかな笑みをたたえている。この笑顔が見られるのも、今日が最後なのかと思ったとたん、悲しみが波のように心を飲み込んだ。 「姉様に会えるのも、今日が最後なのね」  私は視線を落とした。 「何を言っているの? 私たち、会が終わっても、ずっとずっと友だちよ」 「ほんとうに?」  私は顔を上げた、ベネットは太陽のように笑っていた。 「ええ!」 「また、たくさんお話しできる?」 「もちろんよ。今度、クィンシーのお屋敷に遊びに行くわ」  その言葉を聞いて、私とリズィーは飛び跳ねて喜んだ。 「やった、あたし、楽しみ」 「うん、私もすっごく楽しみ」  会話の切れ目を狙って、バーマンの使用人が素早く口を開いた。 「ご歓談のところ失礼いたします。会場に案内いたしますので、こちらにお願いいたします」 「わかったわ。では、みんなでいきましょう」  ベネットの声に私たちは是と答えた。  そして、ベネットを真ん中に、三人で手を繋いで歩き出した。
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