日和日和

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日和日和

「似てるな」「え、何が?」何の気なしに漏れた一言を聞き逃さなかった那由多からすぐに聞き返され、あぁ、口に出ていたんだなと気が付いた。新しい元号が発表された日、官房長官が漢字二文字を掲げた直後から、携帯・パソコン・テレビとあらゆる所から繰り返される言葉を見て抱いたのは「日和」に似ているなという事だった。机の上のノートに書いたブサイクな猫の落書の上に吹き出しで新しい元号を書き込みながら答える。「日和に似てない?」「ひより?え、だから何が?」「新しい元号」「え?・・・あぁ、日和ね。一文字だけじゃん。それに日和だとHで始まるから平成と被るから駄目じゃないかな?あと、普通に読みずらいし。」おぉ、なるほど。なるほど。「でもさ、日和って良くない?日本の平和略して日和」そこでチャイムが鳴った。教室の前の入り口から先生が入ってくる。 晴れた天気、空模様。晴天。また、なにかをするのに、ちょうどよい天気。日和はそんな意味らしい。今日みたいな天気の事を日和というのかもしれない。この時間最高に日当たりの良い窓際のこの席から外を見るのが大好きだ。新元号を発表するのに、この天気は正に最適だなと思う。何かをするのに最適な晴天で日和日和だな、などと思う。那由多は読みづらいと言っていたが、君の名前に比べればだいぶ目にする機会は多いと思う。「なゆた」はたくさんの極めて大きな数という意味だと同じクラスになった日に本人に教わった言葉だ。そういえば新しい元号の出典された万葉集も諸説あるが万の言の葉を、つまりたくさんの歌を集めたという事らしい。ご両親はたくさんの事に挑戦してほしいとか、たくさん幸せになって欲しいとかそんな思いで那由多にその名前を付けたのかもしれない。それなら万葉で「かずは」とよむのはどうだろうか。日の暖かさに惚けきった頭で誰に言うでもなくお薦めするのだった。とても眠い。でも眠くてもしょうがないのではと思う。そう、今日は日和日和なので。
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