名伯楽

未亡人の憂鬱

主人を戦争で亡くして、“まだ”四年なのか、“もう”四年なのかは、人によって捉へ方が異なると申しますが、ワタクシにとっては、いつのまにか“もう”四年も経っていたというのが正しいところでありましょう。
と申しますのも、戦争が終わり義弟の善三さんが東京の大学から戻っていらしてからの二年はあっという間でしたから。

出征前に急いで亡き主人と祝言を挙げた際にお見かけした善三さんは、その当時は、まだ詰襟丸坊主で下駄を履いた学生さんでした。
それが終戦後に帝国大学を卒業なさってご自宅に戻られたお姿を拝見した途端、ワタクシの体内にびびびと電気が走りました。
東京での学生生活で垢抜けられたそのお姿は、まるで映画スタァのような二枚目になっておいででした。
ワタクシは、そんな善三さんをお見かけするたびに、夫を亡くした悲しみが癒されていくのを感じておりました。
体の芯が“じゅっ”となるような…。
結局ワタクシは、夫を亡くした悲しみを、夫の弟の善三さんに救っていただいたと言っても過言ではございません。
もちろん、私が密かにお慕いしているだけでなのですが。