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Marigold -3-
母の死から四年後、私は豪奢な応接室で、ひとりの男と対峙していた。
真っ先に私との契約を打ち切った、そして最も資金力を持つ、とある製薬機関代表の男だった。
「それで?話があるそうじゃないか」
「はい、例の新薬について」
男は露骨に面倒臭そうな顔をした。
「研究の利権のことじゃないだろうね?あれは私に権利がーー」
「ええ、利権は貴方に。しかし研究データそのものについては、私に権利がある。私にしか作り出せない、独自性が含まれているからです」
男は黙った。
「何も知らない、田舎者の若僧のままだと思われましたか?」
「独自性だと?そんなものをどうやって証明する」
男は強気にそう言いながらも、金庫を開けると紙幣の束を取り出し、机の上に投げた。かなりの大金だ。
「とはいえ、つまらんことで脅迫されるのは御免だ。それで和解しようじゃないか」
男の提案に、私は思わず笑い出した。
「何がおかしい?足りないか」
「お金じゃないんです。まして、脅迫などと、人聞きの悪い」
そう、私がわざわざ男を訪ねたのは、小遣いを貰いに来た訳ではない。
「独自性をどうやって証明する、ですか?ええ、できますとも。
実はあの新薬ですが、あれでは未完成なのです」
「何?」
男の顔色が変わった。
「確かにあの研究で、多くの患者が救われたことでしょう。しかしあの新薬を投与の後に、不可解な急死を遂げた患者の事例があるのではありませんか?」
「それは……」
私の推論からすれば、その件数は決して少なくはない。
男は、恐らく金の力で隠蔽していた、不都合な事実を知る私に、動揺を隠せないでいた。
「私にはその原因が分かりますよ。それを解消するのが最後の仕上げだったのに、貴方は私を切り捨てた」
「それを……世間に公表するのか」
「どうしましょうか」
私は薄く笑った。本当にこの男の頭の中は、金と世間体のことだけだ。
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