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Marigold -4-
私と男はそれぞれの約束を果たし、さらに十年の歳月が流れた。
私は故郷で、表では村人に医療魔法を施しながら、裏では男の資金を元手に、不死の研究を進める毎日を送っていた。
そんなある日、この小さな村に、魔女と剣士が訪れた。
こんな辺鄙な場所に何をしに来たのかは知らないが、その魔女の姿を見て私は目を見張った。
彼女の名はポルポラ。
見た目は十代でしかないが、ゆうに千年の時を生きる不死の魔女だ。
彼女は医療魔法の研究者の間で有名なので、一目見てすぐに分かった。
ポルポラから不死の秘術の仔細を訊き出せれば、研究は一気に進む。何とかして話ができないものか。
いや、どうせ簡単には話さないだろうから、いっそ捕えて拷問しても良い。
そして私は、ポルポラと連れの剣士に近付き、二人を会食に招くことに成功した。
「夕食の前に、書庫でもご覧になりますか?」
相手の警戒心を解くには何が必要か?ーー簡単だ、相手と共通の話題を持てば良い。
世界中から集めた貴重な魔法書の数々に、ポルポラは興奮の色を隠せないでいた。
もともと彼女は、精神年齢だけに関して言えば幼かった。あるいは見た目相応とも言えるが。
どちらかといえば、最後まで若干の警戒心を抱いていたのは、剣士のほうだった。
しかし彼は普段から、ポルポラの知性に見合った会話をできない自分に、ある種の劣等感や罪悪感を抱いていたようだ。
それは私にとって好都合であった。私との技術討論に白熱する彼女の様子を見た彼は、この場がポルポラにとって相応しいものであると誤解をしてくれた。
不死の魔女との医療魔法に関する技術討論は、単純に面白かった。
しかし話すにつれ、同時に失望感も抱いた。
ーーポルポラは、ただ永い時を生きただけの魔女なのだ。
彼女の持つ膨大な知識、それらを吸収する知性、そして応用力は、確かに素晴らしい。しかし特別に賢いか、特別に優秀かと言われれば、そんなこともない。
もし私が不死であったならーーきっと今の彼女を超えていた。
また彼女と剣士は恋人同士でもあったようだが、実にくだらない。
しょせんは違う時の流れを生きる二人だ。恋愛ごっこに興じる暇があるなら、一冊でも多くの書を読むべきだ。
ときおり覗く彼女の無為な生き様が、この村や、魔法学校での同級達を思い出させ、内心で私を苛立たせた。
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